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[全文公開] アングル 行き過ぎた租税回避を可能にしている者(enabler)のあぶり出し

 税理士 川田 剛

( 94頁)

▶はじめに

BEPSプロジェクト(行動計画12)では、行き過ぎた租税回避スキームの義務的開示制度について提言がなされていた。

これをふまえ、英国では、2017年の税制改正で、「租税回避を可能にしている者(enabler of tax avoidance)」に関する規定(2017年財政法スケジュール16、パラ7)を設け、租税回避スキームの開示強化に乗り出している。

HMRC(英国歳入関税庁)では、かねてより租税回避スキームを利用している者だけでなく、それらの行き過ぎた租税回避を可能にしている者(enabler)についても問題視し、租税回避スキームを販売した者等に対する当局への開示義務化を求めてきた (注)

(注)ちなみに、2017年の税制改正では、開示義務の対象者をより具体的に法令上明記するとともに、義務違反に対するペナルティも強化されている。

そこで、今回は、先般強化された英国の「租税回避を可能にしている者(enabler)の取締り制度」について紹介する。

※なお、この記事を書くに当たっては、HMRCのパンフレット「Identify who is Classed as an enabler of tax avoidanceを参考にした。

▶租税回避を可能にしている者

2017年改正法では、「行き過ぎた租税回避を可能にしている者」を次の5つに区分している。

① 租税回避アレンジメントのデザイナー

ここでいう「デザイナー」には、租税回避スキームアレンジメントの提案に際し、「LLPの組成等を提案する者」や「デザイナーの要望に応じ、当該アレンジメントに関し、税務上の意見書を書いた弁護士(barrister)」も含まれる。

② 租税回避アレンジメントのマネージャー

ここでいう「マネージャー」には、それらのアレンジメントに関する組織又はアレンジメントに部分的に関与している者も含まれる。

③ 租税回避アレンジメントの販売者(marketer)

ここでいう「アレンジメントの販売者(marketer)」とは、次のような行為をする者をいう。

イ.利用客に対し、アレンジメントの提案をしたりその後においてそれらをフォローする者

ロ.アレンジメントの提案に際し各種の関連情報を提供する者

例えば、租税回避スキームのアレンジメントに関するファイナンシャル・アドバイザー等もこれに含まれる。

④ 租税回避アレンジメントへの参加を可能にしている者

⑤ 租税回避アレンジメントに関し、ファイナンス面から(それへの参加を)可能にしている者

▶脱税、租税回避ほう助者に係る開示、報告義務違反に対するペナルティ〜特にオフショア関連で〜

脱税、租税回避を可能にしている「ほう助者(enabler)」のほう助内容が租税回避スキームかオフショアに関連するものである場合、次のようなペナルティが課される。

① 当該行動(action)が、他の者をしてオフショアを利用した脱税又はノン・コンプライアンス行為を実行しようかなと思わせ又はやれるかも知れないと思わせる(likely to enable)ものであること。

具体的には、他の者による次のような行為がそれに該当する。

  • オフショア活動を利用した「不正な歳入阻害行為(cheating the pablic revenue)」
  • オフショアを利用した所得税の脱税行為(fraudulent evation)
  • オフショアを利用した資産隠し及びそれに伴うキャピタル・ゲイン税、所得税等の租税回避行為
  • ② ほう助・教唆等により、他人に上記のような違反行為があった場合、納税者本人だけでなく、ほう助者にも、それによって生じる可能性のある税収ロス(Potential loss revenue:PLR)に対し、次のいずれか多い方のペナルティが課される。

  • 税収ロスの100%相当額
  • 3000ポンド
  • さらに、オフショアで行われるそれらの行為に加担していた場合、次のいずれか多い方の金額を上限とした追加ペナルティが上乗せされる(additional penalty)

  • 税収ロスの50%相当額
  • 3000ポンド
  • なお、HMRCは、ほう助者がその内容等をHMRCに自発的に報告又は開示した場合(disclose)には、上記のペナルティについて状況に応じ軽減することができることとされている。

    ただし、その報告又は開示は、原則として脱税等が行われる前のタイミングでなされなければならない。