[全文公開] 書評 高山 政信・矢内 一好 著『テーマ別 国際税務のケーススタディ』(2024年10月1日刊/第一法規)
共栄大学国際経営学部 教授 秋山 高善

最初に、著者の高山先生、矢内先生のお二人は国際税務に関する造詣が深く、そのお二人が書かれた書籍として読者の期待に応える内容となっている。
本書は、大きく4つのテーマから構成されている。以下に簡潔に本書の内容の紹介と特筆すべき点について示す。
事例検討をしている類書では、その事例を解決するためだけの内容しか得られないことが多くある。しかし、本書は「Ⅰ 国際税務の基礎的事項」で、読者にとって事例を検討するための前提知識が網羅的に整理されている。そのため、事例を解決するための事前準備として全体像を頭に入れることができる点で優れている。
事例検討では、個人と法人とに分け、「Ⅱ 個人の国際税務のケーススタディ」及び「Ⅲ 法人の国際税務のケーススタディ」で、それぞれの項目ごとに、まずはその項目の事例を理解するためのポイントを整理し、その上で具体的な事例の検討をするというスタイルとなっている。また、取り上げられている事例は実際に起こっている、または起こり得る事例であり実践的なものとなっており、その結論と理由について根拠を示しながら解説している。それによって、読者が自ら条文等を紐解きながら事例を解きほぐすことができるようになり、その事例を解決するだけでなく、他の事例の解決にも役立つことになる。
このように本書は、Ⅰで全体像、Ⅱ・Ⅲでは項目ごとの整理及び事例検討というように、スムーズに事例を理解できるようになるための工夫がなされており、国際税務のベテランの方だけでなく、国際税務を日々実践されている読者にとっても参考となる一冊に違いない。
最後の「Ⅳ 国際税務のトピックス」では、近年の国際税務に関する話題を国内外問わず取り上げている。特に近年の国際的な動向についてはBEPSの問題をはじめ、注意が必要なものばかりであり、その動きが簡潔、かつ、わかりやすく解説されている点が秀逸である。あらためて読んでみると、点と点がつながっていることが実感できる。
コロナ禍が過ぎ、人の流れが以前のように多くなってきており、それに伴い国境を越える課税問題も多くなるであろうこのタイミングで上梓された本書は時機を得ており、国際税務を行う読者の手許に是非置いておくことをお勧めする一冊となっている。
(共栄大学国際経営学部教授 秋山 高善)