[全文公開] アングル ポリティカル・アポインティー
税理士 川田 剛
▶はじめに
先般の米国大統領選挙で、トランプ元大統領が返り咲きで再選をはたした。
たまたま筆者は、選挙当日、ハワイで開催されていたセミナー(61st Annual Hawaii Tax Iustitute Conference) (注) に参加していたが、出席メンバーの多くが選挙結果に注目していた。
というのも、セミナー講師のなかの何人かが、トランプ政権時代に彼によって任命されたいわゆる「ポリティカル・アポインティー(Political Appointee)」だったからである。
(注)このセミナーは、基本的には遺言や相続を専門とする弁護士、会計士、プライベート・バンク、エステート・プランナー等を対象としたものであったが、このセミナーに参加することで、年間参加が義務付けられている専門家のための継続教育のクレジットが受けられることになっている。
そのため、参加者は500人を超える大規模なものとなっていた。
そこで、今回は、米国における「ポリティカル・アポインティー制度」について簡単に紹介してみることとしたい。
▶ポリティカル・アポインティー制度の概要
トランプ大統領は、選挙期間中に「自分が当選したらポリティカル・アポインティーを現在(約4000人)の10倍に増やす。」と宣言していた。
今後その公約どおり実行されるか否かは不明であるが、現在は2人のみとなっている「IRSのポリティカル・アポインティー」も、かつては全国で60人以上いたことがある。というのも、当時は全国で約50あった「税務署長」だけでなく、現在はなくなっている「国税局長(Regional Commissioner)」のポストも、ポリティカル・アポインティーとされていたためである。
しかし、税務署長が時の大統領(共和党又は民主党)によって任命されていた当時は、政敵に対する徹底した調査が行われるなどの弊害が目立つとして問題視されたこともあって、1950年代のアイゼンハワー大統領時代に大幅に削減された。その結果、IRSでは、それまで60人以上いた対象者(ポリティカル・アポインティー)が、2人のみを残し全て廃止となった。
(注)ちなみに、わが国でも第二次大戦前に同様の制度(政治的任用制度)が存在していた。しかし弊害があるとして、政党再編に伴う大政翼賛会成立(1940年10月)に伴い廃止となった経緯がある。
▶上院の承認
大統領に任命されたからといって、それだけで新ポストへの就任が可能になるわけではない。
そのために必要とされている手続が、上院での証言とそれをふまえたうえでなされる承認手続きである。
(注)ちなみに、上院は100人で構成され、現在は共和党が過半数を占めることとなったことから、この手続きは比較的スムーズに行くことになると見込まれている。
この手続きによる承認の見込みが得られない場合、指名候補者は、指名を辞退することになるのが一般的である。現に、今回も閣僚指名を受けた者のうちの何人かが、個人的スキャンダル等により、上院での承認を得ることが困難だとして指名を辞退している。
先般、会食をしたIRS元長官によれば、承認手続きの中でもっと大変なのは、非公式で行われる上院議員への個別訪問と、その際に先方から出される厳しい質問だとのことである。
そこを無事に乗り切れれば、たとえ反対はあったにしても、承認の見込みが立つとのことであった。
(注)なお、その際、IRS元長官に、「トランプ大統領から再度指名があったら受けるのか。」という質問もしたが、「自分はほどほどの年令(63才)でもあり、再指名はないだろう。」とのことであった。
ただし、「それでも指名されたらどうなるか。」という質問はしなかった。せっかくの機会だったのでこのような形での再質問をしておくべきであったと反省している次第である。