[全文公開] アングル IRSたたき第2弾
税理士 川田 剛
▶はじめに
以前この欄でも紹介したことがあるが、日本の国税庁に相当するIRS(米国内国歳入庁)では、1980年末ごろから第一線における調査官や徴収官が自分の実績を上げるため、納税者の個別事情等を無視した調査、徴収活動を展開し、納税者から執行体制に対する不満が生じていた。
しかも、担当官がこのような態度に出る背景として、日本流にいういわゆる「増差件数主義」があった。
このようなことから議会では、現場の担当官に対するいわゆる「尻たたき」について、担当官及び納税者の何人かを議会に呼び、本人の顔を出さない形でその状況について証言させた。
その結果、1998年7月、「1998年IRS改革法(IRS Restructuring and Reform:Act of 1998)」によりIRS組織の大幅な改革と事務運営の抜本的見直しが行われた。
具体的には納税者の権利保護の強化の一環として、一定の記帳や帳簿・記録を保存している納税者についてはそれまで慣行となっていた課税における立証責任を納税者サイドからIRSサイドに転換するとともに、IRSの組織をそれまでの徴税機能優先の職能別、地域別組織から納税者を顧客(Customer)として扱う納税者グループ別組織に改められた。
▶IRS改革法制定後の状況
このような形でIRSの執行体制に大きなメスが入れられたことなどもあり、それ以降現場における調査、徴収担当官の士気が低下し、タックス・シェルターに代表される課税のがれ商品の横行などがみられるようになった。
そこで、バイデン政権の下、IRSの職員及び予算が再度充実され、多国籍企業を中心に調査、徴収担当職員の大幅な増加が図られてきた。
しかし、このような状況も、第2次トランプ政権下で大きく変わろうとしている。
▶トランプ政権による行政改革
第2次トランプ政権では、発足当初から行政効率化というスローガンの下、行政庁の大幅な予算及び人員削減の方針を打ち出している。
そのうち、IRSについては、まず最初に約6000人を削減するとともに、全体で約2万人を削減するとしている。ちなみにその数字は、バイデン政権時代の4年間に増加させた人員にほぼ等しい。
そもそも、トランプ大統領は選挙キャンペーン当時から、それまで慣行とされてきた自己の税務申告書の開示に消極的だった。
当初は自分自身が税務調査を受けているためとして開示を拒否していたが、中途でマスコミに過去の納税記録がリークされた。
それによれば、同大統領は第1期の大統領就任前15年間のうち10年間の分について個人所得税を納税していなかったとのことである。
この記事に怒った同大統領は、IRSに対し守秘義務に違反した者がいるとしてその処分を要求した。それに応じIRSは当時の担当職員を告発した。
裁判の結果、2024年にIRSの元職員は禁固5年と罰金5000ドルの刑が科されている。
このような背景もあって、同大統領は第2期の就任時からIRSに対し厳しい姿勢をみせていた。
その結果、自分の最も信頼できる者をIRSの長官に指名し、上院の承認も得たものの、IRSの職員による反発等もあって、わずか54日でそのポストを去っている。後任にはベッセント財務長官が代行という形で努めている( 10月号 )。
他方、IRS内部では、新長官の方針に従うことを良しとしない何人かの幹部が辞任し、主要ポストのうちいくつかが空席となっている。
今後、さらなるIRSたたきが行われるのかどうか注目されるところである。





