[全文公開] 書評 竹内 茂樹 著 『移転価格の法理』(2025年12月2日/中央経済社)
千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二
デジタル技術が多国籍企業のグローバル経営を変革したこと等により、課税権の国別配分を規定してきた伝統的国際課税ルールの不適切さが強く認識されることとなった。この課題を取り上げたのがG20/OECDが主導するBEPSプロジェクトであり、その勧告に基づく税制改正が各国で進展しつつある。その中で最も関心を呼んだ制度が「独立企業原則」を看板とする移転価格税制であり、本書は、直近の改正を経た同税制を材料として、法制度の理念から具体的な執行ポリシーに至るまで包括的な検証を行い、実務家及び研究者の知的関心事項の太宗を網羅した力作である。移転価格に関する行政官・実務コンサルタント・研究者のすべてを歴任してきた著者の幅広い実務経験が本書の説得力を下支えしている。
本書は大きく2部に分かれており、第1部は、独立企業間価格や独立企業間利益率の算定方法のメカニズムを、多くの事例を用いて比較検討している。法令の条文構成にこだわらず、実務家が最も苦労する最適手法ルールの下にある各種算定方法の選択に必要な法令情報を、租税特別措置法と同施行令のみならず、通達や事務運営指針等の解釈ガイダンスさらにはその背後にあるOECD移転価格ガイドラインを渉猟して解説している点に特徴がある。加えて、これまで他書が踏み込まなかった「所得移転の蓋然性」という調査・執行サイドの本税制発動のためのメルクマールの分析は、実務家に新たな視点を提供する有益な貢献と思われる。
第2部は著者が博士論文で取り組んだ我が国移転価格税制が抱える理論的課題の検討を紹介するものである。そこでは、判例分析に加えて外国税制との比較法分析を行っており、我が国法制が踏み出しかねている「取引の再構築による否認の可能性」について、OECD移転価格ガイドラインとの整合性を中心に深掘りした検証を行っている。この点は、特に我が国で移転価格問題にアプローチする官民両サイドの専門家の間でも、ホットなイッシュとなっている課題であり、筆者の分析は鋭く示唆に富んでいる。仮に将来、現法制よりも取引の再構築の余地を立法で広めることとなった場合の検討事項(納税者の予測可能性に資する事前審理や事後の仲裁等の二重課税解消メカニズム)は、実務家の目を通した実践的で創造的な政策論と評価されよう。
本書は、「移転価格の法理」というタイトルにふさわしい上記内容を備えており、移転価格にかかわる実務家及び研究者の本棚に常備しておきたい1冊と思われる。
青山慶二(千葉商科大学大学院客員教授)




