[全文公開] Topics Plus No.12 クライアントサービスに役立つ国際税務の知識
税理士 遠藤 克博
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執筆者経歴 1978年 東京国税局入局。1990年 国税庁調査課からロンドン長期出張、1997年~1999年 税務大学校研究部教育官、2000年~2003年 東京国税局調査第一部国際調査課課長補佐、2003年~2006年 税務大学校国際租税セミナー担当教授。2008年 税理士登録、2009年~2020年 青山学院大学大学院国際租税法客員教授、2010年~ 電子機器メーカー、電子部品メーカー、外航海運業の社外監査役。 主な著書「海外取引の税務Q&A」「税理士のための国際税務の基礎知識」(税務研究会)、「BEPS文書作成マニュアル(共著)」(大蔵財務協会)など著書多数。 |
マルチメディア研修会での講義
2025年11月に、関東信越税理士会の国際部会の代表の方からお話があり、会員向けのマルチメディア研修講師の機会をいただきました。事務所に入所した新人の所員の方でもわかる国際税務の全体像を2時間で解説する貴重な機会でした。今回はそのサマリーを報告したいと思います。
税理士に必要な国際税務の知識
税理士事務所の業務には、事務所ごとの特徴があるようです。私の場合は、決算、申告、税務調査対応の比率はそれほど高くなく、次のような税務相談への対応を行っています。
イ 海外進出を始めた中小規模の企業の税務及び関連領域の相談対応
ロ 大規模企業の国際取引に関する法人税、消費税、所得税、源泉所得税、印紙税等の相談対応
ハ 人材育成のための社内研修の企画と実施
ニ 各種事業関連組織、大学、大学院、税理士会、税務大学校等での講師
ホ 専門誌や書籍等の執筆
友人税理士の話を聞くと、国際税務を主たる業務領域にしている個人税理士はそれほど多くなく、税務全般を守備範囲にされている先生が多いようです。法人、個人、様々な事業体と顧問契約の相手方には多様性がありますが、クライアントが行う取引には、取引先の所在地、取引の内容、決済の方法などを通じて、何らかの形で国際税務が関係してきます。
国際税務担当者を育成する際の留意点
事務所の中で、国際税務の担当者を育てていくとした場合に、留意すべき点は何かという視点で私見を述べたいと思います。
1.文献に見る国際税務の領域
「国際税務」全般の解説書の目次をめくってみると、次のような項目が出ています。
イ 国際課税の基本概念(居住地国課税と源泉地国課税など)
ロ 国内法と租税条約
ハ 非居住者課税
ニ 外国法人課税
ホ 内国法人課税(外国税額控除、外国子会社配当益金不算入制度、国外転出時課税、外国子会社合算税制、移転価格税制、過少資本税制、過大支払利子税制)
イは国際税務の研究領域を解説したものです。ロは税制の根拠となる法令を解説しています。ハ、ニ、ホが各納税義務者別の課税制度の概要が解説されています。ホについては個別の国際税制を取り上げ、制度の概要が解説されています。
内国法人と海外取引の税務対応
クライアントサービスを念頭に置いた場合、顧問先が内国法人で海外取引があるケースもあれば、顧問先が外資系法人、外国法人のケースもあるでしょう。顧問先が内国法人である場合は、社内の文書や資料は日本語で作成され、社員間の説明、伝達等も日本語で行われるものと推測されます。顧問先が外資系法人や外国法人日本支店等の場合は、社員間の説明、伝達も作成される文書等も外国語である場合があります。
外国語で作成された文書や資料を基に税務対応を行う税理士は、会社が作成した書類の内容を十分に理解し説明できる者、当該書類に基づいて行われた税務処理の内容と根拠等を理解し説明できる者を押さえておく必要があります。
また、各事務処理の担当者が課長、部長、社長といった意思決定の階層のどこまで事実関係を伝達し、了解をとっているかも押さえておかなければなりません。この点は国内税務についても必須のことですが、国際税務に関しては、専門性のある業務を効率的に回す必要から、担当者サイドに判断が任されているケースが散見されるため、十分に留意する必要があります。これらを勘案して税務調査対応時には、指摘事項や調査の進展等の情報共有に努める必要があります。
国際税務の広がりと課題
事務所運営の視点に立つと、所長が自ら専門家になるべきなのか、特定の所員にその役割を担ってもらうべきかといった基本的な方針の決定が求められます。国際税務のフィールドは非常に広いと実感します。納税義務者に視点を置くと、個人、法人、多様な事業体等が取引の当事者として現れます。また、所得に課される税については、納税義務者の居住地国で課される税、取引が行われて所得が発生した所得源泉地で課される税があります。税には所得を課税標準とする税のほかに、消費や固定的施設の有無により課される税など、多様性があることも念頭に置いておく必要があります。
二重課税の問題とその解決策
同じ所得について、居住地国であるA国のみならず、源泉地国であるB国においても所得に対する税が課されるケースも非常に多いと言えます。同一の所得に対して複数の国が課税を行った場合には、居住地国で税務申告を行う際に、外国税額控除を適用することにより、二重課税の排除を行います。この取扱いには、二国間の租税条約が関係してきます。
税務申告の誤りと対応
申告に誤りがあり税を払いすぎた場合には、税務当局に対して税の還付請求の手続きを行います。また、税務調査等により、納税額の不足を指摘された場合には、修正申告を行うか、更正処分を受け入れ、追加の税を納付します。更正処分に納得しない場合は、異議申し立ての手続きを行わなければなりません。これらの手続きは専門性が高い領域ですので、人材の適性を見極めて人事配置する必要があります。
2.ビジネスとしての国際税務の特徴
貿易実務、外国為替をベースにし、外国語で記載された文書等をもとに、国際取引の記帳を行い、決算を組んで、税務申告書を作成し、納税する作業には、専門性とともに、語学力や貿易実務、金融取引実務といった知識と経験も必要ですので、企業は相応の予算を用意します。国際取引の税務調査による否認金額は非常に重いものがあり、課税リスクの高さも専門家ニーズにつながっているようです。
R7.12月発表 令和6事務年度(R6.7-R7.6)の調査事績
| 法人税調査全般 | 左のうち海外取引調査 | |
| 実地調査件数 | 54,000件 | 10,195件 |
| 申告漏れ所得金額 | 8,198億円 | 2,096億円 |
移転価格調査は移転価格税制の適用に絞った調査が行われますが、海外取引調査は法人税調査の一環として実施されます。
3.国際課税制度理解のための三つの視点
長年、国際課税の実務に携わった経験から、クライアントサービスに当たっては、次の視点で対応を行う必要があると実感しました。
イ 納税義務者 がだれかという視点
納税主体、見方を変えると課税客体がだれかの検討と判断が、税負担として顕在化する要素に直結します。
ロ 所得源泉地 がどこかという視点
経済取引が行われた場所、所得が生じた場所、税負担を課される者の所在地など、納税義務が円滑に履行されるように、所得源泉地という概念が法令等で規定されています。
ハ 適用される税法 は何かという視点
納税義務者、所得源泉地との関連で、納税義務が法令で定められており、納税義務の履行のために必要な要件が法令に規定されています。
項目別に、具体的なポイントを示すと次のようになります。
ポイント1 納税義務者ごとの課税の範囲の視点
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①居住者は全世界所得課税 |
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②非居住者は国内源泉所得課税 |
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③内国法人は全世界所得課税 |
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④外国法人は国内源泉所得課税 |
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⑤国内の組合および信託は全世界所得課税、外国パートナーシップは国内源泉所得課税 |
ポイント2 税務調査における課税庁の視点
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①納税義務者別に課税の範囲が異なることから、所得の内外区分を資料、情報により行う作業が重要である。 |
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②国内源泉所得は取引先が国内にあるため、事実確認が容易であると言えるが、国外源泉所得は取引先等が外国にあるため、所得の把握が難しい。 |
ポイント3 適用される税法の視点
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①課税所得の計算 |
内国法人の法人税( 法法21条 ~)、居住者の所得税( 所法21条 ~)、外国法人の法人税( 法法138条 ~)、非居住者・外国法人の所得税( 所法161条 ~) |
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②外国税額 |
外国税額の損金不算入( 法法41条 ~、 所法46条 ~)、外国税額控除( 法法69 、 所法95 ) |
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③租税特別措置... 租税回避否認規定 |
移転価格税制( 措法66条の4 )、過少資本税制( 措法66条の5 )、外国子会社合算税制( 措法66条の6 ) |
4.具体的な相談事例
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Ⅰ 源泉所得税 「シンガポールの個人ブローカーに情報提供料を支払う。源泉徴収は必要であるか?」 |
(相談への対応)
情報提供の内容、支払先、支払方法(現金か送金か)等の事実関係を確認する必要があります。さらに、損金性に問題がないかを検討します(情報入手による効果、収益等、支払先の実存確認、業務の内容、決済の妥当性等)。そして、現地の税制の確認です。
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Ⅱ 所得税 「外国企業からの役員報酬を受領した。日本企業からの給与もある。申告はどのように行うか?」 |
(相談への対応)
外国企業からの役員報酬に係る情報(書面)の入手、日本企業からの給与に係る情報(書面)の入手を依頼します。当該役員がいずれの居住者であるかを検討します。源泉徴収税額がある場合は、その情報も入手します。
5.国際税制の解説
イ 納税義務者ごとの課税の範囲の概説
ロ 所得源泉地は所得の種類ごとに判定
居住者(日本人)や内国法人等の日本での課税問題では、所得源泉地はあまり検討対象にならないが、非居住者、外国法人の申告義務の判定では、所得の内外区分が必須となる。
6.国際税務検討の手順
| 取引の事実
関係確認 |
税法の解釈・
適用 |
通達・当局
開示情報確認 |
判例・裁決
事例の検討 |




