[全文公開] 経理の1年 【新人編】4~5月

IS経理事務所 代表 葛西 一成

( 12頁)

▼続きはこちら

・経理の1年【新人編】6~7月 ・経理の1年【新人編】8~9月


はじめに

新社会人として働きはじめた皆さんは、就職した会社の配属先でこれからどのような1年を過ごすのでしょうか。

経理の業務は会社の規模や業種・組織体制により異なるものの、共通する部分も多くあります。経理に配属された新入社員の中には、「これから何をするのか」「どうやって仕事を覚えていくのか」といった疑問や不安を抱く人がいると思います。また「他社の経理パーソンはどうしているのだろうか」と、同じ役割を担う同世代の毎日に関心のある人もいるでしょう。

本連載では、事業会社の経理部に配属された新入社員の1年を追っていきます。複数の会社で経理を務めた筆者の経験をもとに、経理業務に共通するであろう部分を一般化し、これから仕事を始める皆さんにも当てはまるような現場の「リアル」を描きたいと思っています。

経理の未経験者がどのようにして職場に馴染んでいくのか、経理部員らしくなっていくのか、どのような仕事・経験を通して経理パーソンとして成長していくのかを物語形式でお届けします。経理業務の進め方や悩みに共感してもらいつつ、「他社ではこんな業務もしているのか」「ほかの新入社員はこうやって対応しているのか」といった気づきを皆さんに発見していただければ幸いです。ベテランの経理パーソンであれば、自身の新人時代と比較しながら楽しんでいただくこともできると思います。

本連載の毎回の内容は、異なる経験・視点を持つ現役の経理パーソンとの談論によって補完する予定です。掲載後に税研Podcastで配信する現役経理パーソンの経験談にもご期待ください。

さて、それでは、中堅上場企業の子会社を舞台に、経理課に配属された新人・青山さんの1年を見ていきましょう。

1.新卒入社で経理へ配属

大学卒業後、東証スタンダード上場企業の子会社であるESC社(業態:システム受託開発、従業員数:約160名)へ入社した青山さん。学生時代に日商簿記3級を取得していたことが評価され、管理部経理課に配属されることになりました。この4月から、初めての経理の仕事がスタートします。

2.新入社員研修

入社初日は、昨年の内定式以来、久しぶりの再会となった同期メンバーと共に入社式へ参加。式が終わるとすぐに新入社員研修が始まりました。システム開発の事業会社ということもあり、同期の大半はエンジニア採用です。一方、管理部の経理採用は青山さんのみ。最初は一人だけ管理部であることに少し不安を感じましたが、ビジネスマナーやグループワークの研修を通じて、同期との交流を深めることができ、ひと安心。

研修1週目は全員が同じカリキュラムを受け、2週目以降は配属される部署によって研修内容が変わります。エンジニア採用の新入社員はプログラミング研修に進みますが、経理採用の青山さんはここで研修を終えることになります。

3.経理へ配属

新入社員研修が終了した青山さんは、早速経理課に配属されます。配属先である管理部は、青山さんともう1名の経理課担当者、総務人事課担当者2名に親会社から出向している管理部長を合わせて5名の少人数チームです。

配属初日は、青山さんが管理部のメンバーに簡単な自己紹介をしたのち、指定された席に座り、まずはパソコンの立ち上げからスタート。既に新入社員研修でパソコンの設定は完了していたため、すぐに仕事を開始することができました。しかし、経理課の先輩社員は忙しそうで青山さんのことをあまり気にかけてくれません(このときはまだ、3月末決算会社の経理は、4月が年間で最も忙しい時期であることを理解していませんでした)。誰からも声をかけられず、とりあえず届いている社内メールを眺めていると、管理部長から「ちょっと、これやってもらいたいんだけどいいかな」と呼びかけられました。「これが初めての経理の仕事だ」と思い、ちょっと緊張しながら管理部長のもとへ。指示されたのは、「加除式書籍のページ差し替え作業」でした。経理実務という分厚い書籍から、古い情報のページを取り出し、更新された新しいページに差し替えるという単純作業です。てっきりパソコンを使って仕事をするのかと思っていましたが、全くのアナログ作業。簡単な手順を教わり、すぐに作業を開始しましたが、正直なところ頭を使わない、そして少し眠くなるような作業です。さらに、差し替えるページがたくさん溜まっていたため、ほぼ一日その作業に費やしました。「まあ、とりあえずやろう」と誰とも話さずに黙々と作業を行ったのが、経理としての最初の仕事です。

一口メモ( ..)φ 「加除式書籍」
 中身の差し替え(加除)が可能な書籍をいいます。現在、経理の情報はWebで確認するのが一般的となり、このような加除式書籍を見かけることは少なくなりました。

次に青山さんが教わったのが、郵便や宅配便の出し方、切手や印紙の管理方法、文房具の発注や管理、福利厚生の一環として提供されていたコーヒー豆の注文のしかたといった業務です。管理部ではこのような庶務的な業務をメンバーが日替わりで担当しています。青山さんもすぐに日替わり担当のメンバーに加わり、業務を覚え始めました。庶務といっても、届いた郵便物を各部署へ届ける作業、切手の保管や使用履歴の管理簿への記入、文房具などの購入先や発注方法、コーヒー豆の注文頻度など、意外と覚えることが多く、慣れるまでには一苦労です。

その後は、管理部のメンバーから、経理業務に必要なファイルの保存場所や会計システムの基本操作について説明を受けました。そして、実際に会計システムへ仕訳伝票を入力してみようということになり、ここで初めて経理らしい仕事を行う機会が訪れます。会計システムでの仕訳入力は初めてですが、簿記の資格勉強で仕訳の起票方法は理解しており、さほど難しくないと思っていたところ、取引に係る消費税の入力でつまずきました。仕訳入力時には、消費税の課税、非課税、不課税、免税といった区分を選択する必要がありますが、どのようにこれを判断すればよいのかがわかりません。普段の生活で購入するものは消費税がかかるものがほとんどであり、区分するという考えはありません。しかし会社ではさまざまな取引が行われ、課税以外の消費税の取引も発生します。

ここで青山さんは初めて、経理の仕事には消費税の知識が必要だと気づきました。消費税の処理について悩む青山さんを見て、管理部長はちょうどよいタイミングで消費税の基礎知識に関する書籍を手渡します(管理部長は最初から、消費税の処理でつまずくことに気づいていたようです)。とりあえず、過去の仕訳を参考にしつつ、消費税の書籍もチェックしながら、仕訳入力を行います。しかし、書籍を読んでみても理解できないことが多く、「しっかり勉強してからでないと仕事をしてはいけないのではないか?」と不安に思うようになります。そこで管理部長に相談したところ、「まずは作業ありきで進めてよい。そこで仕訳を起票しながら消費税区分の選択をやってみる。そうすることで、徐々にどの取引が課税、非課税、不課税、免税に該当するのかパターンがわかってくる。そのタイミングで消費税が区分される理由を勉強すれば、より理解も深まるんじゃないかな」とアドバイスを受けました。

また仕事の進め方について、「なぜこの処理を行う必要があるのか疑問に思うことは大事。ただし、その疑問を解消することに時間をかけすぎると仕事が進まなくなる。まずは手順に従って作業を終えることを優先し、後から落ち着いて疑問を解消するために勉強してみよう」といったアドバイスも受けました。この管理部長のアドバイスは、青山さんのこれからの経理としての仕事スタイルを形成する上で大きな影響を与えることになります。

【青山さんの経理の仕事スタイル】

①従来通りの作業を行う
②作業が完了
③作業中の疑問を解消する(作業の意味や背景も調べる)
④作業の必要性や改善策を考える

初めて行う経理の仕事は、まず従来通りの手順で作業を行います。作業をしていくと、「これ無駄では?」「なんでこんな面倒なことやってるんだろう?」「もっと効率のよい作業方法があるのでは?」といった疑問を持つことがあります。そういった疑問をメモしておきつつ、とりあえず作業を終えることを優先します。作業が終わったら疑問だったことを解消すべく現状の作業内容を深堀してみます。また、可能であれば作業の効率化のための改善にも挑戦してみます(例えばデータ集計で計算ミスをしないようにExcelの資料を改良してみるなど)。

このように、まずは仕事の手順を覚え、今のやり方に疑問を感じ、その疑問を解消した上で仕事のやり方を変えてみる、さらに改善してみる、といったサイクルで経理の仕事を進めるスタイルが青山さんの中で定着していきました。

4.経理のゴールデンウィークは忙しい?

青山さんの経理配属後の仕事は、どちらかといえば庶務的なものが多く、経理としての実感がないまま5月のゴールデンウィークに突入します。休み前には、管理部のメンバーと「連休中は何するの?」といった話題で盛り上がる中、管理部長からは、「親会社の経理は、決算作業でこの連休はほとんど休めないんだよ」という話しも...。子会社は4月中に年次決算を締めて、その内容を親会社へ報告すれば、あとは税金の申告納付や株主総会の準備をするだけであり、連休はしっかり休むことができます。一方、連結決算・開示書類作成や監査対応がある親会社の経理は、この連休中に仕事のピークを迎える場合があります(連休前に決算短信の開示を済ませていれば休むことも可能ですが)。

管理部長の話を聞いた青山さんは、「連休を休めない会社で働くのは嫌だな」と思いながらも、社会人として初めてのゴールデンウィークをゆっくり満喫しました(しかし数年後には青山さんも、決算のために連休をほとんどとれずに働くことになるのですが...)。

5.連休明けの仕事

連休が終わり、まだ休み気分が抜けきらない青山さんに、突如として月次決算の作業が任せられました。といっても、部門別の損益計算書の数値をExcel様式の月次報告資料へ手入力するという単純作業です。さらに開発部門が作成した月次のシステム開発進捗資料が青山さんに手渡され、これら全ての資料を1つのPDFファイルにして月次報告資料一式としてまとめる作業も行いました。そして、毎月開催される取締役会で出席者に配布するための資料を印刷し、ホチキスで留めます。

一口メモ( ..)φ 「今は昔?」
 最近はペーパーレス化が進んでおり、資料の印刷は減っていると思いますが、以前は会議の度にこのような資料作成の作業に時間を費やしていました。現在ではこういった作業は無駄とみなされていますが、新入社員が最初に行う仕事の1つでもありました。

青山さんは、月次決算の中でもう1つの新たな業務として、「前受金管理表の作成」を引き継ぎました。システム開発を受託する会社では、完成品を納品する前に代金の一部または全てを先に受け取ることがあります。その受け取った代金は、開発プロジェクトごとに前受金として管理する必要があり、その管理表の作成が青山さんの新たな業務となります。

この管理はExcelで行われていましたが、専門的なプロジェクト名や金額が羅列しているだけのものであり、管理表の内容が理解できません。さらに追い打ちをかけるように、複数の関数が連なった計算式だらけのシートをみて、どのような計算がなされているのか理解するのに苦労します。

Excelの資料で悩んでいる青山さんに対し、経理課の先輩社員が、前受金管理に必要な根拠資料からどうやって数値を拾えばよいのか、そしてどこに数値を入力すればよいかを教えてくれました。その指導に従い管理表を更新し、前受金の仕訳を入力して、なんとか作業を終えることができました。

青山さんは、この前受金管理表の作成を通じて、Excelを使った作業の難しさと、Excelが使えなければ経理の仕事に支障をきたすという現実を知ります。それ以降、空き時間があればExcelの操作や関数の使い方を勉強するようになりました。

連休明けの5月は、月次決算と並行して株主総会の資料作りも行われます。

一口メモ( ..)φ 「株主総会の開催時期」
 3月決算会社の株主総会といえば、6月末に集中して行われるイメージですが、それはあくまで上場企業の親会社の話であり、子会社の場合は親会社より早く、5月下旬から6月上旬にかけて開催されることが多いようです。

株主総会の開催にあたって、計算書類等や議案の要領の作成、親会社へ支払う配当金の計算書など、さまざまな書類の作成が必要となります。青山さんにはまだこうした書類の作成経験がないので、まずは完成した書類を1つのPDFにまとめ、親会社や自社の関係者へメールを送信したり、当日の株主総会出席者向けに書類を印刷したりといった補助的な作業を担当しました。

一口メモ( ..)φ 「総会の運営も!?」
 こういった株主総会の準備については、通常総務部門が主導することが多いと思いますが、規模が小さい会社では、経理が主体となって行う場合もあります。これは一般的な経理の仕事とは少し異なるかもしれませんが、会社法に基づく株主総会開催までの諸手続を経験することで、年次決算全体の流れを理解するよい機会となります。

6.監査法人との初対面

月次決算や株主総会の準備が行われる中、経理課ではもう1つ重要な業務があります。それは、監査法人と監査役への対応、すなわち監査対応です。監査法人の監査は、親会社の連結決算監査の一環として行われます。また、監査役の会計監査も同時期に行われます。監査は2日間にわたって行われ、監査法人から3名の会計士と当社の監査役でもある親会社の経理課長が来社しました。

そして、青山さんはここで初めて社外の人と名刺交換を経験します。「挨拶するから名刺持ってきて」と管理部長に指示され、慌てて自席から自分の名刺を取り出し、新入社員研修で学んだ名刺交換のマナーを思い出しながら、少々ぎこちない名刺交換を行いました。

経理は営業などと比べて社外の人との接点が少なく、名刺交換の機会も少ない部門です。実際、入社後青山さんが名刺を渡したのは、ゴールデンウィーク中に実家に帰省した際の両親だけでした。その後も新たに出会う社外の人たちと何度か名刺交換をすることになりますが、定期的に新しい人と会う機会は少ないため、なかなか名刺は減りません。

初めての名刺交換を済ませると、早速監査が始まります。今回の監査は、管理部長が主に対応し青山さんは補助的な役割として、監査に必要な書類を会議室へ運ぶ作業を担当します。監査中は、管理部長と親会社の経理課長、そして監査法人の人たちが、なにやらソフトウェアの資産計上に関してのディスカッションをしています。その状況を横でみていた青山さんは、どこか疎外感を感じつつも、自分も議論に参加してみたい、監査対応に関わってみたいという思いを抱きます。しかし、入社後まだ2カ月も経たない青山さんは、専門的な会計の話にはついていけず、初めての監査対応が終わると、少し悔しさを感じました。

一口メモ( ..)φ 「経理職の名刺」
 経理でも管理職となれば、それなりに名刺交換をする機会がありますが、一般的な担当者クラスでは、名刺交換の機会はほとんどありません。それにもかかわらず、社内の組織変更や部署名の変更があるたびに新しい名刺が作成され、前の名刺が余ってしまうことは「経理あるある」ではないでしょうか。名刺は全てデジタル名刺に移行して、そのような無駄も減らせるといいのですが...。

7.まとめ

青山さんは4月に管理部経理課に配属され、初めて経理の仕事を経験しました。しかし、最初の仕事は、経理というよりも庶務的な業務や経理の補助作業です。実際のところ経理に配属される新入社員は、このような補助的な業務から始まることが多いでしょう。そして、3月決算会社であれば4月はちょうど決算作業がピークであり、新入社員が配属されても、なおさら本格的な業務を任せてもらえる状況にはなく、実際のところ時間を持て余すことも多いと思われます。そのような状況の中でも、青山さんは仕訳起票での消費税の区分がわからなかったり、Excel操作で戸惑ったりと、それなりに苦労しながら4月、5月を乗り越えました。

次回は、青山さんが6月と7月にどのような業務を経験し、どのようなスキルを身につけていったのかを解説します。本格的に会計システムを使い始め、徐々に経理らしい業務が任されるようになる青山さんにご注目ください。

次回の掲載は7月8日号の予定です。
みなさんのご意見・感想・体験談を下記までお寄せください。
ベテラン経理パーソンとの談論(Podcast)で取り上げるかもしれません!
・著者のX(旧Twitter)= https://twitter.com/keiri_IS/
・本誌へのご意見・お問合せ=zaimu_answer@zeiken.co.jp
・こちらからもメッセージをお寄せいただけます
 = https://forms.office.com/r/nuJYQQxSzy
Podcastの初回配信は5月17日(金)です。お楽しみに!
税研Podcast URL= https://www.zeiken.co.jp/lp/podcast/

経理部IS@元上場
経理部長/葛西一成

税研Podcast