[全文公開] 令和3年度税制改正大綱(抄)(令和2年12月10日 自由民主党/公明党)
第一 令和3年度税制改正の基本的考え方
(一部省略)
持続的な経済成長には,日本企業の健全な海外展開の促進とその果実の国内への還流という好循環も重要である。公平な競争条件を確保し,課税逃れに効果的に対応する国際課税制度はそのための重要なインフラであり,わが国は「BEPS(注)プロジェクト」においてこれまで主導的役割を果たしてきた。デジタル化を含む経済実態の変化に対し,各国がそれぞれ独自に対応していては企業にとって不確実性が増し,経済活動に負の影響を及ぼすことから,国際的な合意に基づく公平なルール作りが重要である。現在OECDを中心に議論が進められているが,わが国は引き続きこの国際的な議論を積極的にリードし,国際合意に則った制度の見直しを進める。
(注)Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転
(一部省略)
1 ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生
(1)~(2) (省略)
(3)国際金融都市に向けた税制上の措置
わが国の国際金融センターとしての地位の確立に向けて,海外から事業者や人材,資金を呼び込む観点から,諸課題の解決を図る一環として,以下の税制上の措置を講ずる。
(4)~(7) (省略)
2~5 (省略)
6 経済のデジタル化への国際課税上の対応
デジタル技術は経済活動の隅々まで浸透しつつあり,「経済のデジタル化」が急速に進展している。このような時代の変化に対し,モノを中心とした産業時代に形成された国際課税原則(「恒久的施設(PE:Permanent Establishment)なければ課税なし」等)が適切に機能しないといった問題が顕在化している。
また,経済のグローバル化・デジタル化の進展により,知的財産等の国境を越えた取引が拡大し,軽課税国への利益移転が容易となる中,各国が低い法人税率や優遇税制によって外国企業を誘致する動きが活発化しており,過度な法人税の引下げ競争に歯止めをかけることが急務となっている。
経済のデジタル化によって生じるこうした国際課税上の課題への対応については,2021 年半ばまでに国際的な合意をまとめるべく,OECDを中心に議論が行われている。
経済のデジタル化に対する解決策は,わが国企業に過度な負担を課さないように配慮しつつ,企業間の公平な競争環境を整備し,わが国企業の国際競争力の維持及び向上につながるものでなければならない。また,税制の不確実性をもたらす一国主義的な課税措置の拡散を防止するためにも,国際的なコンセンサスに基づく解決策への合意は,喫緊の課題である。わが国としては,令和2年度与党税制改正大綱で示した基本的考え方に沿って,OECDを中心とする国際的な議論に貢献し,国際的な合意に向けて,一層主導的な役割を果たしていくことが重要である。
また,国際的な租税回避や脱税への対応については,今後も引き続き,国際的な議論や租税回避の態様等を踏まえ必要な見直しを迅速に講じていく。併せて,国際課税制度が大きな変革を迎える中,国内法制・租税条約の整備及び着実な執行など適時に十全な対応ができるよう,国税当局の体制強化を行うものとする。
7 円滑・適正な納税のための環境整備
(1)国際化に対応した適正課税の確保
(2)~(3) (省略)
8 (省略)
第二 令和3年度税制改正の具体的内容
一 個人所得課税 (省略)
二 資産課税
1 国際金融都市に向けた税制上の措置
国内に短期的に居住する在留資格を有する者,国外に居住する外国人等が,相続開始の時又は贈与の時において国内に居住する在留資格を有する者から,相続若しくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については,相続税又は贈与税を課さないこととする。
(注)上記の「在留資格」とは,出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格をいう。
2~6 (省略)
三 法人課税
1~2 (省略)
3 国際金融都市に向けた税制上の措置
(国 税)
金融商品取引法の改正を前提に,青色申告書を提出する法人で特定投資運用業者に該当するものが令和3年4月1日から令和8年3月31 日までの間に開始する各事業年度(同法の改正法の施行の日以後に終了する事業年度に限る。)においてその業務執行役員に対して業績連動給与を支給する場合において,投資家の事前承認要件を満たすときは,その業績連動給与に係る役員給与の損金不算入制度の適用については,その法人が提出した金融商品取引法の事業報告書で金融庁長官によりインターネットに公表されたものは,利益に関する指標等が記載されるべき有価証券報告書とみなすとともに,その法人が,その業績連動給与に係る算定方法の内容を,報酬委員会における決定等の手続終了の日以後遅滞なく,その事業報告書に記載して提出し,かつ,同法の説明書類に記載して公衆の縦覧に供し,又は公表した場合には,算定方法の内容が有価証券報告書等で開示されていることとの要件を満たすこととする。
(注1)上記の「特定投資運用業者」とは,その事業年度の収益の額の合計額のうちに占める次の業務に係る収益の額の合計額の割合が75%以上である法人(有価証券報告書提出会社及びその完全子法人を除く。)をいう。
(注2)業績連動給与は,その運用財産の運用として行った取引により生ずる利益に関する指標を基礎とした客観的なものに限る。
(注3)上記の「投資家の事前承認要件」とは,次のいずれかの要件を満たすことをいう。
4~11 (省略)
四 消費課税 (省略)
五 国際課税
1 国際金融都市に向けた税制上の措置
(国 税)
外国組合員に対する課税の特例について,次の措置を講ずる。
(1)特例適用投資組合契約を締結している外国組合員が組合契約(当該特例適用投資組合契約を除く。)を締結している場合における当該特例適用投資組合契約に係る組合財産(以下「投資組合財産」という。)に対する持分割合の要件について,当該特例適用投資組合契約を直接に締結している組合に係る組合契約(以下「特定組合契約」といい,次に掲げる要件を満たすものに限る。)に係る組合財産として当該投資組合財産に対する持分を有する者(当該外国組合員及び当該外国組合員と特殊の関係のある者(以下「外国組合員等」という。)を除く。)の持分割合を除外して判定する。
(2)特例適用申告書等の提出手続について,次の措置を講ずる。
(3)特例適用申告書及び特例適用投資組合契約等の契約書の写し等を5年ごとに提出することとする。
(4)その他所要の措置を講ずる。
2 クロスボーダー取引に係る利子等の課税の特例等における非課税適用申告書等の電子提出等
(国 税)
(1)振替国債等の利子の課税の特例等について,次の措置を講ずる。
(2)外国金融機関等の店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の課税の特例について,次の措置を講じた上,その適用期限を3年延長する。
(3)外国金融機関等の債券現先取引等に係る利子等の課税の特例について,次の措置を講じた上,特定外国法人が特定金融機関等との間で行う債券現先取引に係る利子等の非課税措置の適用期限を2年延長する。
(4)条約届出書等の提出手続について,次の措置を講ずる。
(注)条約届出書等(社債,株式等の振替に関する法律の対象となる振替株式等の配当等に係る一定の条約届出書等を除く。)の提出を行う者が,当該条約届出書等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を行う場合には,その者の氏名又は名称を明らかにする措置を講じなければならない。
(5)その他所要の措置を講ずる。
3 その他
(国 税)
(1)対象純支払利子等に係る課税の特例(いわゆる「過大支払利子税制」)について,次の見直しを行う。
(注)上記の改正は,令和3年3月31 日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する。
(2)外国法人の恒久的施設に帰せられるべき資本に対応する負債の利子の損金不算入制度による損金不算入額について,その恒久的施設を通じて行う事業に係る負債の利子の額に,自己資本不足額がその利子の支払の基因となる負債その他資金の調達に係る負債の総額(現行:その利子の支払の基因となる負債の総額)に占める割合を乗じて計算することとする。
(注)内国法人の国外事業所等に帰せられるべき資本に対応する負債の利子の損金不算入制度等及び国外支配株主等に係る負債の利子等の課税の特例(いわゆる「過少資本税制」)について,上記と同様の見直しを行う。
(3)内国法人が外国子会社から受ける配当等の額に係る外国源泉税等の額の取扱いについて,次の見直しを行う。
(注)上記②により外国税額控除の適用を受ける場合には,その対象とされる外国源泉税等の額は損金不算入とする。
(4)外国法人の株式対価M&Aを促進するための措置の適用については,その外国法人の恒久的施設において管理する株式に対応して株式交付親会社の株式の交付を受けた部分に限る(所得税についても同様とする。)。(再掲)
(地方税)
個人住民税,法人住民税及び事業税について,国税における諸制度の取扱いに準じて所要の措置を講ずる。
六 東日本大震災からの復興支援のための税制 (省略)
七 納税環境整備
1~2 (省略)
3 納税管理人制度の拡充
(国 税)
納税管理人制度について,次の措置を講ずる。
(1)納税者に対する納税管理人の届出をすべきことの求め
納税管理人を定めるべき納税者が納税管理人の届出をしなかったときは,所轄税務署長等は,その納税者に対し,納税管理人に処理させる必要があると認められる事項(以下「特定事項」という。)を明示して,60日を超えない範囲内においてその準備に通常要する日数を勘案して定める日(以下「指定日」という。)までに,納税管理人の届出をすべきことを求めることができることとする。
(注)上記の「所轄税務署長等」とは,その納税者に係る国税の納税地を所轄する税務署長又は国税局長をいう。
(2)国内便宜者に対する納税者の納税管理人となることの求め
納税管理人を定めるべき納税者が納税管理人の届出をしなかったときは,所轄税務署長等は,特定事項の処理につき便宜を有する者(国内に住所又は居所を有する者に限る。以下「国内便宜者」という。)に対し,その納税者の納税管理人となることを求めることができることとする。
(3)税務当局による特定納税管理人の指定
所轄税務署長等は,上記(1)の求めを受けた納税者(以下「特定納税者」という。)が指定日までに納税管理人の届出をしなかったときは,上記(2)により納税管理人となることを求めた国内便宜者のうち一定の国内関連者を特定事項を処理させる納税管理人(以下「特定納税管理人」という。)として指定することができる。
(注)上記の「一定の国内関連者」とは,次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める者をいう。
(4)上記(3)の特定納税管理人の指定については,特定納税者及び特定納税管理人に対して書面により通知を行い,これらの者による不服申立て又は訴訟を可能とするほか,所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は,令和4年1月1日以後に行う上記(1)から(3)までの求めについて適用する。
4 無償譲渡等の譲受人等の第二次納税義務の整備
(国 税)
徴収共助の要請をした場合に徴収をしてもなお徴収不足であると認められる場合において,その徴収不足が国税の法定納期限の1年前の日以後に滞納者が行った国外財産の無償譲渡等に基因するときは,その無償譲渡等の譲受人等は,第二次納税義務を負うこととする。
(注)上記の改正は,令和4年1月1日以後に滞納となった国税(同日前に行われた無償譲渡等に係るものを除く。)について適用する。
5 滞納処分免脱罪の適用対象の整備
(国 税)
滞納処分免脱罪の適用対象に,納税者等が徴収共助の要請による徴収を免れる目的で国外財産の隠蔽等の行為をした場合を加える。
(注)上記の改正は,令和4年1月1日以後にした違反行為について適用する。
6~9 (省略)
八 関税 (省略)
第三 検討事項 (省略)