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[全文公開] アングル 非居住外国人による米国への不動産投資と課税

  川田 剛

( 120頁)

はじめに

近年,日本人や中国人を始めとする非居住者による米国不動産への投資が活発化してきていることから,IRSでは,税務専門家向けに行っているセミナー(ナショナル・タックス・フォーラム)で,「非居住外国人と米国不動産投資(Non Resident Aliens(NRAs)and U.S. Real Estate Investment)」というテーマでこの問題を取り上げ,注意を呼びかけている。

今回は,そのうち,日本人の投資家に要注意と思われる事項について紹介する。

『非居住者による米国不動産投資に係る税務』

同セミナーでは,非居住者による米国不動産投資に係る税務は,次の3ステップに区分してみていく必要があるとしている。

第1ステップ…米国不動産の購入に伴う税務

第2ステップ…米国不動産の保有及び運用に伴う税務

第3ステップ…米国不動産売却に伴う税務

第1ステップ…米国不動産の購入に伴う税務

米国では,外国人による不動産投資について,為替規制を始めとする特段の規制規定等は設けられていない。

また,非居住外国人が米国内で不動産を取得した場合,国によっては,自国でその旨の届出を義務付けているところもあるが,米国では,そのような規制もない(filing obligation on the aquisition of U.S. Property by an NRA)。

さらに,わが国などのように不動産取得者に納付が義務付けられている「不動産取得税等」といった税金が課されることもない(U.S. does net inpose tax on the aquisition of U.S. based Property by an NRA)。

ただし,その後における所得発生等に伴う税務申告への備えとして購入課税において「個人納税者識別番号(いわゆるITIN)を取得しておくことが必要である。」

  • ※なお,米国不動産の取得は,投資家個人で行うことも可能であるが,相続発生等に伴うトラブルに備えるため,一般的にはLLCを始めとする事業体等を用いるべしとしている。
  • 第2ステップ…米国不動産の保有及び運用に伴う税務

    非居住者が米国不動産を保有している場合,州や市町村レベルでわが国の固定資産税に相当する財産税(property tax)が課される。

    また,それらの資産を賃貸等に出している場合には,それらの所得に対し連邦所得税(及び州によっては州所得税も)が課される。

    非居住者が米国内で所得する不動産から生じる所得に対する連邦所得税の課税所得は,通常の場合,次の2つである。

    ① 米国内における事業(trade or business)と関連のない所得の場合…FDAP(バッシブ・インカム)とみなされ,受取総額の30%相当額が源泉徴収の対象となる。
    ② 米国内の事業活動に実質的に関連している所得(Effectuiely Conected Income:ECI)の場合の場合 (注) …ネット・ベースの所得に対し累進課税
  • (注)ただし,納税者の選択により(IRSの認が必要),不動産所得について,①に代えECTとして②の課税を受けることも可能(IRC第871条(d))である。その場合,納税者は,申告書と②の選択をした旨の届出書の申告書への添付が必要とされている(Treas Reg. §1.871‐10)。
  • また,所定の期限内に申告をしなかったときは,必要経費の控除は認められず,受取総額の30%相当額の源泉徴収の対象となるので,要注意である。

    第3ステップ…米国不動産の売却に伴う税務

    非居住者の有していた米国不動産を購入した者(米国居住者であると米国非居住者であるとを問わない)は,購入代金の15%相当額の源泉徴収をしたうえでIRSに納付しなければならない(IRC第1445等) (注)

  • (注)購入者が外国法人やREIT等であるときは,源泉徴収税率は21%となる(同前)。
  • それらに加え,米国内における所得の発生源が米国不動産のみである非居住者は,非居住者用の申告書様式1040NRのスケジュールD及び様式4797により,IRSに譲渡損益の申告をしなければならない。

    なお,申告に際しては,源泉徴収票(様式8288)もあわせて添付しなければならない。

    非居住者が,公開市場で取引されていないパートナー・シップを通じて投資をしており,かつ,外国のパートナーがその持分を処分した場合には,IRC第1446条により,外国パートナーの得た利益額に対して,法人パートナーの場合であれば21%,それ以外の場合であれば37%の源泉徴収をしなければならないこととされている。

  • ※これらの件に関し,IRSではいくつかの公報Publication(515,519,527,946及びInternational Tax Topics等)を出しているので,詳細について知りたい方はそちらもあわせて参照していただきたい。
  • あとがき

    米国中古不動産投資を利用した租税負担回避行為については,令和2年度の税制改正で抜け穴封じがなされたので,今後,新規投資は大幅に減少するものと見込まれている。しかし,売却に伴う問題は依然として残されているので,今回あえて紹介することとした次第である。

    (参考)米国不動産屋取引イメージ

    資料出所:IRSナショナル・タックス・フォーラム配布資料より抜すい(一部修正)

    (大原大学院大学客員教授(前明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科教授))