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[全文公開] 2021年 新規締結租税条約のポイント

  西島 大充
  小島 大輔
  清水 一也

( 24頁)

日本・ジョージア租税条約の締結

我が国とジョージアとの間では,これまで昭和61年(1986年)に締結された「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」(以下「旧条約」といいます。)の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られてきました。旧条約は,その締結から長年が経過し,現在の両国の経済関係にそぐわない内容となっていたため,両国政府は,令和2年(2020年)10月に旧条約を改正するための交渉を開始しました。その結果,令和3年(2021年)1月29日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とジョージアとの間の条約」(以下「条約」といいます。)についてトビリシにおいて署名が行われました。条約の主な内容は以下のとおりです。

改正前 配 当 15%
利 子 免税:政府受取等
10%:その他
使用料 免税:著作権
10%:その他
改正後 配 当 5%
利 子 免税:政府受取等
5%:その他
使用料 免税

(1)事業利得については,企業が進出先国内に支店等の恒久的施設を設けて事業活動を行っている場合に,その恒久的施設に帰属する利得に対してのみ,進出先国において課税することができることを規定しています。
(2)投資所得(配当,利子及び使用料)については,源泉地国における限度税率等を以下のように規定しています。
(3)条約の特典の濫用を防止するため,使用料に対する免税は適格者等の一定の要件を満たす居住者に限って認められること,また,条約の特典を受けることが取引等の主要な目的の一つであったと認められる場合には条約の特典は認められないことを規定しています。
(4)条約の規定に適合しない課税は,両国の税務当局間の協議による合意に基づき解決されることを規定しています。
(5)国際的な脱税及び租税回避に効果的に対処するため,両国間における租税に関する情報交換及び租税債権の徴収に関する相互支援を実施することを規定しています。

条約は,両国それぞれの国内手続(我が国においては,国会の承認を得ることが必要であり,条約は第204回国会で承認されました。)を経た後,令和3年(2021年)6月23日に両国間で外交上の公文の交換を行い,同年7月23日(外交上の公文の交換の日の後30日目の日)に効力を生じ,次のものについて適用されることとなります。

① 我が国においては,
(i)課税年度に基づいて課される租税に関しては,令和4年(2022年)1月1日以後に開始する各課税年度の租税
(ⅱ)課税年度に基づかないで課される租税に関しては,令和4年(2022年)1月1日以後に課される租税
② ジョージアにおいては,
(i)源泉徴収される租税に関しては,令和4年(2022年)1月1日以後に取得される所得
(ⅱ)その他の租税に関しては,令和4年(2022年)1月1日以後に開始する各課税年度について課される租税

ただし,情報交換及び徴収共助に関する規定は,対象となる租税が課される日又はその課税年度にかかわらず,令和3年(2021年)7月23日から適用されます。

日本・セルビア租税条約の締結

我が国とセルビアとの間には,これまで租税条約は存在しませんでしたが,両国間の経済関係の発展を踏まえ,両国政府は,令和元年(2019年)11月に租税条約を締結するための交渉を開始しました。その結果,令和2年(2020年)7月21日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とセルビア共和国との間の条約」(以下「条約」といいます。)についてベオグラードにおいて署名が行われました。条約の主な内容は以下のとおりです。

(1)事業利得については,企業が進出先国内に支店等の恒久的施設を設けて事業活動を行っている場合に,その恒久的施設に帰属する利得に対してのみ,進出先国において課税することができることを規定しています。
(2)投資所得(配当,利子及び使用料)については,源泉地国における限度税率等を以下のように規定しています。

配 当 5%:持分保有割合25%以上・保有期間365日以上(注) 10%:その他
利 子 免税:政府受取等 10%:その他
使用料 5%:著作権 10%:その他
(注)持分は,日本法人支払の場合は議決権,セルビア法人支払の場合は資本を指します。

(3)条約の特典の濫用を防止するため,第三国内に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合及び条約の特典を受けることが取引等の主要な目的の一つであったと認められる場合には条約の特典は認められないことを規定しています。
(4)条約の規定に適合しない課税は,両国の税務当局間の協議による合意に基づき解決されることを規定しています。
(5)国際的な脱税及び租税回避に効果的に対処するため,両国間における租税に関する情報交換を実施することを規定しています。

条約は,両国それぞれの国内手続(我が国においては,国会の承認を得ることが必要であり,条約は第204回国会で承認されました。)を経た後,両国間で外交上の公文の交換を行い,交換の日の翌日から30日目の日に効力を生じ,次のものについて適用されることになります。

① 我が国においては,
(i)課税年度に基づいて課される租税に関しては,条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
(ⅱ)課税年度に基づかないで課される租税に関しては,条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
② セルビアにおいては,
条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度において取得される所得に対する租税

ただし,情報交換に関する規定は,対象となる租税が課される日又はその課税年度にかかわらず,条約の効力発生日から適用されます。

編集部より

詳細版は,国際税務データベース(月刊国際税務電子版)に掲載する予定です。用意ができしだいホームページ等でご案内いたします。