※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

親子間契約書は必要か有用か<2>

外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一

( 27頁)

本稿では, 前回 から3回にわたり,主として日本の移転価格税制の観点から,親子間契約書の必要性と有用性について検討しています。本稿の目次と掲載号は,以下のとおりです。

  • Ⅰ はじめに
  • Ⅱ 親子間契約書の国内法令上の位置付け
  • Ⅲ 親子間契約書のOECD移転価格ガイドライン上の位置付け
  • Ⅳ 親子間契約書作成の際の外国子会社所在地国の税制の考慮
  • (以上 前号

  • Ⅴ 親子間契約書の整備のもたらすメリット
  • Ⅵ 親子間契約書の整備に当たっての一般的な留意点
  • Ⅶ 親子間契約書の整備の手順(以上本号)
  • Ⅷ 契約類型ごとの検討
  • Ⅸ まとめ(以上次号)
  • Ⅴ 親子間契約書の整備のもたらすメリット

    1 問題の所在

    上記Ⅱ,2及び3では,日本の移転価格税制関連の通達や指針を中心に,親子間契約書の作成が必要又は有用と考えられる具体例を列挙した。しかし,親子間契約書は,特定の契約類型 32 や価格調整金等の支払条項のような特殊な条項のためだけに必要とされるものではないし,その有用性が認められる局面も限定的に捉えられるべきではない。

    実際,上記Ⅲで述べたとおり,日本の移転価格税制の解釈適用において参照されるOECD移転価格ガイドラインは,親子間契約書を移転価格分析の出発点として重要視している。

    さらに,上記Ⅳのとおり,外国子会社の所在地国の税制に照らしても,親子間契約書の整備が必要又は有用と考えられるケースがある。

    以上を踏まえると,日系の多国籍企業グループも,親子間契約書の整備にもっと注力すべきである。そして,かかる契約書を整備することには,単なる移転価格対応の一手段にとどまらず,以下のようなメリットがある。

    第一に,親子間契約書の整備という作業自体には,税務上のリスクを洗い出し,必要な対策を講ずる契機となるというメリットがある。親子間契約書は実態を反映していないと尊重されないから,その整備をする過程では,当然のことながら,対象となる取引の実態の正確な把握に努め,それに沿った契約書の作成を心掛けることになる。そのような作業を通じて,当該取引に係る税務上のリスクを洗い出し,必要な対応策を講ずる途が開ける可能性がある。

    第二に,予め親子間契約書に,特殊な調整条項や特別な合意事項を盛り込むことによって,移転価格対応が容易になることが考えられるし,ひいては事務上の負担が軽減できる場合がある。

    第三に,親子間契約書の整備により,重要な国外関連取引に係る当...