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[全文公開] アングル コカ・コーラ社,租税裁判所で敗訴

 税理士 川田 剛

( 62頁)

はじめに

コカ・コーラ社は,今から20年ほど前に,日本の国税庁から追徴課税を受けたことがある。当時,マスコミ報道等でも大きく取り上げられたので,ご存知の方も多いと思われる。この課税については,係争に至ることなく,日米両当局間の相互協議で解決をみている。

  • (注)ちなみに,同社グループが日本で課税を受けた際,問題となったのはロイヤリティ料率だけだった。それは,国税庁が同社の日本子会社に対して,原液の取引対価にも問題があるとして,それらに関する資料の提出を求めたのに,日本子会社がそれらは同社グループの企業秘密であり,かつ,親会社の有する資料については,入手の努力義務のみしかなく,結果的に入手できないとしていたためである。
  • その後,長い間,同社が税務面でマスコミの話題になるようなことはなかった。しかし,先般,IRSが同社グループの米国親会社に対し,巨額の追徴課税(約33億ドル)を行ったことから,この処分を不服とする同社側が租税裁判所に提訴した。

    そこで,今回は,IRSの更正処分内容と,それに対するコカ・コーラ社の反論及び租税裁判所における判断について紹介する。

    IRSの処分内容

    この事案が最初に問題とされ,IRSによって更正されたのは,かなり古く,今から四半世紀も前の1996年(平成8年)のことである。

    その際,IRSは,米国コカ・コーラ社の1987年~1995年分の所得について,国外関連者との取引における所得金額が少なすぎるとして,内国歳入法第482条に基づき,移転価格の追徴課税を行った。

    そして,その際,両当事者間で合意したのは,米国親会社が売上げの10%相当額をまず最初に受領し,その後の利益を,米国親会社と国外関連者の間で50対50で折半するというものであった。

    その後1996年~2006年分の調査時においても同じ算定法が用いられていたが,IRSではその算定方法を是認していた。

    然るに,今回,2007年~2009年分の調査において,IRSが,前回の合意にとらわれず,CPM法により総額33億ドルの課税を行うとしたことから問題となった。

    今回行われた更正の具体的な内容は,①同社がアイルランドなど7ヵ国に所在する製造子会社(以下,まとめてA社等という。)から受領しているロイヤリティの料率(売上高の10%相当額)及び残りの利益を50対50で分配していたことが,所得相応性基準に照らしてみた場合,結果的に米国親会社の所得をA社等の国外関連者に移転していたのではないかという点と,②A社等がボトラーに供給している濃縮液の価格を操作することにより,本来米国親会社の所得となるべき部分がA社等の利益になっていたのではないかという点であった。

    租税裁判所の判断

    本件は,10年以上にわたり租税裁判所で争われてきたが,同裁判所は,2020年11月18日付(Coca-Cola co v. Commissioner T.C No.19(2020))で,たとえ初回調査時に10-50-50という利益配分方式で合意していたという事実があったとしても,当時とは状況が大きく変化しているとして,CPM法を用いたIRSの更正処分をほぼ全面的に認める判決を下している。

    あとがき

    このように,租税裁判所でIRS側の主張が認められたことから,近年,敗訴続きだった移転価格課税をめぐる訴訟では久々の勝訴となった。

    しかし,本判決に対しては,コカ・コーラ社側から控訴審に本判決取消しの申立てがなされていることに加え,租税裁判所に対しても,2021年6月2日付けで「再審査の請求」 (注) がなされていること等から,今後,そこでどのような判断が示されるのか注目される。

  • (注)Motion for Reconsideration of Findings on Opinion Pursuant to Rule 161, Docket No.31183--15
  • (参考)租税裁判所における再審理

    19名の裁判官はそれぞれの部門(1~19部門)を構成し,原則として独自の判断により裁判所の意見として判決を下すことができることとされている。ただし,事前に首席裁判官の意見を聞くこととされている。その結果,判決が変更になることもある。

    また,首席裁判官は,必要と判断したときは複数の判事による合議体での審理を求めることができる。さらに,裁判所全体の協議が必要と判断したときは,19名の判事全員 が出席する全体会議において再審理を求めることができることとされている(USC第746条(b))。

    ※ 現在は2名が欠員で,大統領の指名待ちとなっているため,全員で17名である。

    うち7名はトランプ前大統領による指名,3名はブッシュ元大統領による指名で,いずれも共和党系とみられている。残り7名のうち5名はオバマ元大統領による指名,2名はクリントン元大統領による指名(オバマ元大統領による再指名)で民主党系とみられている。

    (参考) 米国租税裁判所(U.S.Tax Court)の組織図概要