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[全文公開] 書評 税務担当者と実務家のための相続税・贈与税 体系財産評価

( 131頁)
税理士 川田 剛

相続税・贈与税は,相続又は贈与によって財産を取得した者の当該財産の価額に着目して課税される。その結果,これらの税において最も重要となってくるのが財産の把握とその評価である。

このうち前者については,かつては無記名や仮名,借名等による預金口座が存在し,担当官はその把握が重要な仕事となっていた。

しかし,近年では,それらの預金等はほとんど消滅している。また,真の所有者の割出しが困難だった割引債等についても,ほぼ同様の状況となっている。

その結果,相続税・贈与税の分野において,残されている最大の問題点が財産の評価であるという点については,実務家であれば異論のないところであろう。

このようなことから,相続税法では第3章で「財産の評価」という特別の章が設けられ,①地上権及び永小作権の評価( 法23条 ),②配偶者居住権等の評価( 23条の2 ),③定期金に関する権利の評価( 24条 ),④給付事由の発生していない権利の評価( 25条 ),⑤立木の評価( 26条 )などについて,個別に評価に関する規定が設けられている。

然るに,それ以外の資産に係る評価については, 第22条 で,「この章で個別の定めのあるものを除くほか,相続,遺贈又は贈与により取得した資産の価額は,当該財産の取得の時における時価による。」と規定されているのみである。

そこで,国税庁では,評価の統一化を図るため,「相続税財産評価に関する基本通達」(直資56,直審(資)17 例規 昭和39年4月25日付,以後ひんぱんに改正)を定めている。

ただ,財産評価の問題は,相続という一生に一度あるかないかという突発的事項に係るものであり,かつ,専門的,技術的側面が多いことから,一般の人達にとってむずかしいというイメージがあることも事実である。

本書は,このような問題意識の下,長い間,資産税の分野で実務に従事してこられた3人の方の共著となるものであるが,イメージ図や計算式を多用することなどにより,難解な評価の問題を分かり易い形で説明がなされている。

本書の構成は,「第1章 総説」,「第2章 相続税法で定められている財産の評価方法」,「第3章 財産評価基本通達で定められている財産の評価方法」,「第4章 災害と評価」,「第5章 参考資料編」,となっている。具体的な評価方法については第3章で,なかでも,実務家にとって最も難しい問題である①「土地及び土地の上に存する権利の評価」,②「株式及び出資の評価」(特に,非上場株式の評価)について詳細な説明がなされている。

また,近年注目を集めている(この通達の定めにより難い場合の評価については,国税庁長官の指示を受けて評価することができるとされている),いわゆる6項の規定についても,その趣旨等について判例を引用しつつ,丁寧な説明がなされている。

本書のタイトルにもあるように,本来は税務担当者と実務家を念頭において書かれたものではあるが,研究者の方々,さらには,これから税の分野に進もうと考えておられる学生諸君にも是非一読をおすすめしたい良書である。

(税理士 川田 剛)