※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] アングル 米国の小型キャプティブ保険

 税理士 川田 剛

( 106頁)

はじめに

米国では,個人や法人が保険会社と契約し,支払った保険料を必要経費や損金に計上するだけでなく,グループ内で保険会社を作り,そこを通じてロイズなどの再保険会社と契約するというやり方,いわゆる「キャプティブ保険(Captive Insurance)」が広く行われている。

特に,これらのキャプティブ保険のうち,一定規模以内のいわゆる「小型キャプティブ(micro Captive)」保険会社については,内国歳入法第831条(b)により,保険料収入が非課税とされている。そのため,この利用が活発に行われている。

※なお,これと同様の利用は,わが国層にも普及してきている。

内国歳入法第831条(b)の規定

内国歳入法第831条(b)では,保険会社のオーナーが単独であるかグループであるかそれとも借りものであるかを問わず,次の要件を充足していれば,受け入れた保険料に対する課税はないこととしている。

  • ① それらの会社(キャプティブ・セルを含む。)が,保険会社として実際に存在し,リスクを負っているなど,財務省規則で規定された要件を充足していること
  • ② それらの会社が,米国法人であること又はオフショア法人ではあるものの.内国歳入法第953条(d)により,米国保険会社として課税されるものであること
  • ③ それらの会社の保険料収入が年間220万ドル以下であること(2017年以降)。 (注)
  • (注)インフレ調整により変更になることもある。

    (要注意点)

    ただし,対象会社の保険料収入が,1回でも上記の金額を上回ったときは,その年以降,この特典の享受は認められなくなる。また,そこでいう保険料収入は,粗収入(gross revenue)ベースによって計算される。

    したがって,例えば,保険料収入が年間200万ドルの小型キャプティブ保険会社はこの要件を充足していることになるが,年間のグロスの保険料収入が400万ドルで,経費として250万ドル支出していた保険会社は,たとえ小型であったとしても,税制上の特典享受要件を充足していないので課税となる。

    また,それらの保険会社を,租税負担軽減目的のみで介在させている例が多かったことから,IRSでは,それらの会社に対し税負担軽減目的以外の事業目的の存在(invgt baue a business purpose not merely a tax-redacing purpose)が必要であるとしている。

    小型キャプティブ保険に対する義務的開示制度

    そうはいっても,これらの小型のキャプティブ保険会社を介在させることで,個人又は法人グループ全体の租税負担を軽減することができることは事実である。

    そのため,IRSでは,2016年にNotice2016- 66を発出し,小型キャプティブ保険の利用を租税回避又は脱税の可能性の高い取引であると指定(listed transaction)し,投資家及びプロモーター等のいわゆる「重要なアドバイザー(Material Advisor)」に対し,IRSへの開示,報告を求めるとともに,義務違反に対し,ペナルティ(民事罰)を課すことにしている。また,場合によっては,刑事罰の対象とする旨を明らかにしている。 (注)

    しかし,納税者本人に対してでなく,納税者ではないプロモーターなどの第三者に対してまで税法に基づくペナルティ賦課の対象にするのは行き過ぎではないかとする意見もある。

    プロモーターに対する税法上の賦課をめぐって争われた事例(CIC事件)

    ちなみに,この点が問題となったプロモーターによる開示差止請求事案(CIC事案―CIC Services LLC V. IRS, 593U.S.,No. 19-930(2021)において,連邦最高裁は,2021年5月17日付の判決で,Notice2016-66について法令上の根拠等を含む詳細な分析をしたうえで,「プロモーターによる開示差止請求は『反差止法(Anti-Injunction Act)AIA』により許されない。」とする連邦地方裁判所及び第6控訴裁判所の判断をつくがえし,Notice2016-66を根拠としたプロモーターに対するペナルティ賦課の是否及びプロモーターの果たしている機能等について再度検討するよう求め,この事案を連邦地方裁判所に差し戻している。