[全文公開] アングル 金持ちのタックス・ヘイブン,米国
税理士 川田 剛
はじめに
以前この欄で米国がタックス・ヘイブンであるという話をしたことがあるが( Vol.38,No.12 ),今回はその続編である。
BEPSプロジェクトでは,多国籍企業による国際的な課税逃れが問題視され,その防止策として,現在2つの柱について議論がなされている。
この議論は,バイデン政権の発足に伴い,大筋について合意に達した。
しかし,個人富裕層による課税逃れについては,パナマ文書等で問題が表面化したものの,実際になされたことはといえば,情報交換の積極化等(BEPS防止措置実施条約(MLT))くらいのものである。
しかも,米国はそれにも参加していない。
非米国市民による米国金融機関への預金利子と支払調書
周知のように,米国市民(米国に永住権を有するいわゆるグリーン・カード保有者を含む。)以外の者,いわゆる米国非居住者が,米国に銀行口座を有し,そこから利子を得ていた場合,原則的には米国で30%の税率による源泉徴収の対象となる。
しかし,受益者が非居住者である旨を記載した「様式W--8BEN」という書類を提出すれば,源泉徴収の対象外とすることが可能である。
それは,米国内国歳入法で「銀行等に預金口座を有する者に対する利子で,米国非居住者が受領するもののうち,当該利子が米国における事業の遂行と実質的に関連を有していない場合には,それらの者が得る所得は国外源泉所得になる。」と規定されているためである(IRC第861条(a)(i)A及び(c))。
そして,そこでいう銀行預金利子等には,定期預金だけでなく,積立定期預金総合口座における定期預金,コール・マネーについて米国の事業所から外国銀行に支払われる利子,米国の財蓄銀行が発行するユーロ・ダラー預金利子,信用組合が支払う利子等も含むこととされている(財務省規則§75--104,149,§83--175ほか)。
そもそもこのような制度ができたのは,米国内に外国の資金を流入させるためであった。そのため,当初は臨時的な措置とされ,1966年には連邦議会で廃止すべしとの決議もなされた。
しかし,当時貿易収支が大幅な赤字だったこと等もあり,1972年まで延期され,1976年にはこの制度(非課税)が恒久化されるに至っている。
情報交換との関係
米国では,米国市民が海外に有している金融口座については,「外国口座コンプライアンス向上法(いわゆる「FATCA」)により,外国所在の金融機関に対しても,米国政府への報告を求めている。
他方,米国非居住の外国人が米国内に有している金融口座については,自動的情報交換の対象にもしていない。しかも,米国は前述した「BEPS防止措置実施条約(MLI)にも署名していないことから,それらの情報を情報交換の対象にすることも考えていない。
あとがき
このような,米国の立場を大国の身勝手と感じるか,それとも自国の利益を重視した当然の施策と考えるべきなのか。
読者諸兄はどのように考えられるのであろうか。