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■緊急レポート 『令和4年度税制改正大綱で明確化するとされたデリバティブ取引等の決済による所得の取扱い』

 税理士 山崎 昇

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1 はじめに

令和3年12月10日に公表された令和4年度与党税制改正大綱は,「金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は,所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に含まれないことを法令上明確化する。」(五 国際課税 3(3))としている。

本稿は,現時点においてこれを解説するものである。

2 国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」について

非居住者及び外国法人は,国内に恒久的施設(以下「PE」という。)を有しない場合でも,国内源泉所得として規定される「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」( 所法161 ①二, 法法138 ①二,以下「資産の運用・保有所得」という。)については,総合課税により所得税又は法人税を申告する必要がある( 所法164 ①二, 法法141 ①二)。

資産の運用・保有所得は,国債,地方債等の割引債の償還差益,国内で業務を行っていない居住者に対する貸付金の利子,及び国内営業所等と契約した生命保険金等の支払いが例示されているが( 所令280 ①, 法令177 ①),資産からその運用果実としていわば時間の経過にしたがって発生してくるという所得,法律的な性格は利子ではないとしても経済実質的には利子である所得と解されている。

3 「明確化」について

これは「明確化」であり,金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得は,そもそも資産の運用・保有所得に含まれないと考えられるが,あえて明確化したのは,平成31年3月25日に出された2つの裁決が影響しているのではないかと推測される。1つは,日本を出国してシンガポール居住者となった者(請求人)が,国内PEを有さずに国内証券会社を通じて大阪取引所で日経225先物取引を行って得た所得に係る裁決(未公表裁決:裁決番号 平成30-114)であり,もう1つは,国内証券会社と店頭FX取引を行っていた居住者が,出国して中国居住者(請求人)となった後も国内PEを有さずに店頭FX取引を行って得ていた所得に係る裁決(公表裁決:裁決番号 平成30-115)であるが,いずれも資産の運用・保有所得として課税した原処分の取消しを求めた請求が棄却されている(現在訴訟継続中)。

これらの裁決は,個別事案として個人の出国後の国内取引について...