移転価格税制についての素朴な疑問③ 国税庁は移転価格課税と寄附金課税をどのように区別しているか(1)
外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一
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Ⅰ はじめに
法人と国外関連者間の取引に関し,移転価格課税と寄附金課税の適用範囲をどのように区別すべきかについては,従来から様々な議論が行われてきた 1 。
本稿は,現在公表されている資料に照らし,国税庁がこの問題につきいかなる見解をとっているかを解明することを目的としており,これまでの諸説を整理したり,私見を述べたりすることを意図するものではない。
そのために,本稿は,以下の順序で検討する。
第一に,Ⅱにおいて,移転価格課税と寄附金課税の関連規定を精査する。併せて,移転価格課税と寄附金課税に関連する租税特別措置法の条文は,平成3(1999)年度税制改正によって現在のような文言になっているので,その当時の立法担当者が,両者の関係をどのように捉えていたのかを確認する。その上で,移転価格課税と寄附金課税の共通点と相違点にも言及する。
第二に,Ⅲでは,国外関連者に対する寄附について規定する移転価格事務運営指針等の公表文書に示されている国税庁の考え方を詳細に検討する。その結果,移転価格課税と寄附金課税の適用範囲につき国税庁が公にしている見解は,一点のみが不明であることを明らかにする。その不明な一点とは,「いかなる要件を充足すれば寄附金課税の適用があるか」という,寄附金課税の適用要件の問題である。この問題について,国税庁は,移転価格事務運営指針等の公表文書で具体的な解釈の指針を示しておらず,法令の解釈と個々の事案の事実認定に委ねるという立場をとるようである。したがって,この点の解明は,寄附金課税に関する法令の解釈について述べる裁判例・裁決例を参照して補充することになると考えられる。
第三に,上記考えに基づき,Ⅳでは,寄附金課税の適用要件に関する裁判例・裁決例を概観し,特に近時の裁判例がいかなる立場をとっているかを解説する。この結果,国税庁が国外関連取引に関し寄附金課税を広く適用することが明らかになる。
第四に,Ⅴにおいて,寄附金課税の適用要件の立証責任を,納税者と国のいずれが負うかを明らかにした上で,「事実上の推定」の問題にも言及する。これらの問題の検討は,裁判のみならずその前段階においても,寄附金課税の適用を巡る攻防を考える上で重要な視座を提供するからである。
第五に,以上の検討結果を踏まえ,納税者としてどのような点に特に留意すべきかをⅥでまとめておく。
以上のとおり,本稿は,国税庁の公表資料と寄附金課税に関する近時の裁判例等をつなぎ合わせることによって,国税庁が移転価格課税と寄附金課税の適用範囲をどのように区別するかという問いに対する答えを提示しようとする試みである。
Ⅱ 関連規定の精査
1 はじめに
本稿で取り扱う問題の検討の出発点として,まず関連条文を精査する。具体的には,移転価格税制に関する租税特別措置法66条の4第3項及び第4項並びに寄附金課...