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判決評釈  サンリオ事件判決への疑問

京都大学大学院 法学研究科教授 岡村 忠生

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はじめに

本判決 は,自社キャラクターを使用した商品の企画・販売,著作権の許諾・管理等を行う内国法人(一部の係争年度においては連結内国法人)X(原告,控訴人)に対して,Xの特定外国子会社等が営むキャラクター関連事業がタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算課税制度) の適用除外要件を満たさないことを理由として行われた課税処分を,処分理由の違法性については判断をせず,第一審で国Y(被告,被控訴人)が主張した確定申告書に適用除外記載書面の添付がなかったことに基づき,認めたものである。第一審判決と控訴審判決は,ほぼ同内容であるため,合わせて論じる。どちらの判決も,以下で述べるように,極端に形式主義的な判断方法を取り,特定外国子会社等の事業内容に関する実質的な争点についての判断を回避している。しかし,このような判断方法は,域外課税の要素を持つタックス・ヘイブン対策税制を,国際的租税回避の防止という本来の目的を越えて不当に拡大するものとして,とうてい容認できるものではない。様々な行政申請においても,添付書類の不備だけで,直ちに失格とするようなことは行われていない。文言に囚われた法の「適用」により,法の精神を歪曲するような形式主義は,改められるべきである。本来の争点(「著作権の提供」とは何か。)を審理することは,担当裁判官にとって大きな負担となったとは思われるが,裁判所本来の役割である法制度の意味や解釈の討究を回避することは,決して正しいことではない。それは,納税者が租税回避をするのと同罪だ。また,タックス・ヘイブン対策税制の適用がある場合の外国税額控除についても,判決は,制度の意味を正しく理解しておらず,是正されるべきである。

事実の概要

Xは,香港を本店所在地とする子会社で,発行済株式の95%を間接保有するA社と,100%を間接保有するB社を有していた。これらの子会社(両社を合わせて以...