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バーチャル組織の実践課題 第1回 駐在員の非駐在化とその課題

AsiaWise Group 税理士 高野 一弘
AsiaWise Group 弁護士 久保 光太郎
AsiaWise Group 公認会計士 山﨑 耕平

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1.はじめに

日系多国籍企業は,伝統的に現地法人に駐在員を配置し,その配置された駐在員を起点として現地法人の経営・管理を行うグループ企業管理体制を実践してきました。近年,一部の機能部門に限って法人の枠を超えたグローバル組織の形成を企図する企業グループが出てきていたとはいえ,まだ実践段階には至っていない状況です。

ところが,新型コロナウイルスのパンデミックはそのような実務に大きな影響を与えました。世界各国がロックダウン等の強制措置を講じるなか,物理的な人の派遣を前提としたグループ企業管理が実行できない事態に陥ってしまいました。パンデミック発生当初は一過性のもので短期的に元の世界に戻ると考えられていましたが,その影響が長期化するにつれ,一時的な対応策を講じるのみでは不十分と考えらえるようになりつつあります。

著者らは,日系多国籍企業はむしろこの状況を逆手にとって,グループ内に法人の枠にとらわれず,その人的リソースを有機的・機動的に活用することを目指す上でまたとない機会ととらえるべきであると考えます。そこで本連載では,グループ企業の経営・運営上,必要となる要員とその所在地国が一致しないグループ企業管理体制を「バーチャル組織」と呼び,その税務,ガバナンス及び法務上の課題及びその解決の方向性について考察したいと考えています。初回となる本稿は,「緊急一時帰国」下での課題の考察を行ったのちに,その課題を解決する方策としての「駐在員の非駐在化」に焦点を当てて考察を行います。

駐在員の非駐在化

2.コロナ禍での駐在員の一時帰国期間の長期化

新型コロナウイルスが猛威を振るう中,多くの企業で駐在員を帰国させる判...