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[全文公開] 新任社員のための国際税務の仕組みとポイント 第25回(最終回)まとめ

 公認会計士・税理士 佐和 周

( 70頁)

今回は,最終回ということで,国際税務のテーマである「二重課税」という観点から,本連載で見てきた重要な税制の位置付けを整理したいと思います。一言でいうと,「二重課税を発生させる制度なのか,それを排除してくれる制度なのか」ということですが,この点も含めての最終確認です。

1.国際税務とは

以下は連載第1回の冒頭に書いた内容です。

...いきなり「国際税務とは?」と聞かれると,言葉に詰まるのですが,1つ言えるのは,国際税務は「税法」の話だということです。ただし,全世界共通の1つの税法があるわけではなく,税法は国ごとに定められています。つまり,日本企業であれば,まずは日本の税法(法人税法や所得税法など)を知っておく必要があります。これに加えて,海外に進出すると,同時に海外の税法も考えなければなりません。先に言っておくと,海外の税法とセットで,租税条約と呼ばれるものも考慮する必要が出てきます。

このように「日本の税法+海外の税法(+租税条約)」というのが「国際税務」のイメージです。

その上で,連載 第1回 では以下の内容もお伝えしました。

...国際税務の問題は,多くの場合,二重課税の問題と整理できます。したがって,「国際税務について考える」というのは,実質的には日本の税法と海外の税法(及び租税条約)を総合的に検討し,「二重課税が発生しないか?」を考えることを意味すると言ってもいいでしょう。

本連載は,この「二重課税」というキーワードを軸に,ここまで色々な税制を見てきましたが,これをまとめると下表のとおりです。

分類 税制
日本企業に対する二重課税(①)
  • 海外企業からのロイヤルティ入金の例(連載 第1回
  • PE認定(連載 第6回
  • ①の二重課税の排除のための制度
  • 租税条約(連載 第3回
  • 外国税額控除制度(連載 第45回
  • 租税条約に基づく相互協議
  • グループに対する二重課税(②)
  • 移転価格税制(寄附金を含む。連載 第8回第13回
  • タックス・ヘイブン対策税制(連載 第1415回
  • ②の二重課税の排除のための制度
  • 相互協議による対応的調整(連載 第10回
  • 外国税額控除制度(連載 第45回
  • 二重課税を発生させないための制度(③)
  • 外国子会社配当益金不算入制度(連載 第7回
  • APA(事前確認。連載 第10回
  • 以下では,上表の順番で,各税制のおさらいをしていきたいと思います。まずは日本企業に対する二重課税からです。

    2.日本企業に対する二重課税の問題

    (1)二重課税の発生

    連載 第1回 で,国際税務が二重課税の問題であるとお伝えした後,最初に見たのは日本企業に対する二重課税の問題でした。具体的には,日本企業J社がF国にある企業F社に特許をライセンスし,そのF社からロイヤルティ(ライセンス・フィー)の支払いを受けたケースについて,「居住地国課税+源泉地国課税」という枠組みを確認しました。

    全体像は図1のとおりですが,まず源泉地国課税について,日本企業J社(F国においては「外国法人」)は,F国では「F国を源泉とする所得」に源泉徴収の形で課税され,入金を受けるロイヤルティは,税金(源泉税)を差し引かれた後の金額になります。一方,居住地国課税について,日本企業J社(日本においては「内国法人」)は,日本では全世界所得に課税され,受取ロイヤルティに対応する法人税等を申告・納税する必要があります(図1参照)。

    図1 F国での課税と日本での課税

    その結果,日本企業J社は,受取ロイヤルティについて,海外(F国)でも日本でも課税され,「二重課税」が発生しています。「海外の税制+日本の税制=二重課税」ということです。

    連載 第6回 で見た恒久的施設(PE:Permanent Establishment)の問題もこれと同様の問題と整理できます。

    PEとは

    PE(恒久的施設)とは,シンプルにいうと「事業を行う一定の場所等」であり,支店などがその典型です。

    日本企業が海外でPE認定されると,その国で(PE帰属所得について)申告・納税を行うことを求められます。つまり,これと,日本での全世界所得課税をセットで考えると,二重課税になるということです。ロイヤルティのケースとは異なり,日本への送金に際して課税(源泉徴収)されるものではないですが,日本企業の所得が海外で課税されているという点では同じですね。

    (2)二重課税の緩和・排除

    国際税務の問題が二重課税の問題であるとしても,二重課税はそのまま放置されるわけではなく,二重課税を排除・緩和するための制度もあります。

    (1)の日本企業が受け取るロイヤルティの例でいうと,まずはF国における源泉税(源泉地国課税)を減免してくれるのが連載 第3回 で見た租税条約です。

    租税条約とは

    租税条約とは,二重課税の軽減・排除や脱税の防止などを目的として,主権国家の間で締結される成文による合意をいいます。日本は多くの国(2022年3月1日現在で,149の国や地域)と租税条約を締結しています。

    租税条約には限度税率が定められており,具体的には,F国国内法で20%とされている使用料源泉税率が10%まで低減されるケースを確認しました。

    もう1つ,二重課税の緩和・排除のための制度としては,外国税額控除制度も存在し,その内容は連載 第45回 で確認しました。

    外国税額控除とは

    外国税額控除とは,国際的な二重課税を排除するために,海外で納付した(または源泉徴収された)外国法人税を一定の条件のもと日本の法人税等から差し引く制度です。

    租税条約との関係では,租税条約により10%まで低減された源泉税(外国法人税)について,この外国税額控除によって,日本の法人税等30%から控除することになります。つまり,これにより,トータルの課税は日本の実効税率分になり,完全に二重課税が解消されるイメージです(図2参照)。

    図2 国際的な二重課税の発生とその緩和・排除(租税条約+外国税額控除)

    上記のとおり,日本企業についていうと,日本の法人税等は全世界所得について課税されるため(居住地国課税),海外からのロイヤルティのような国外源泉所得が海外で課税された場合には(源泉地国課税),その部分について二重課税が発生します。そこで,外国税額控除という形で,海外で納付した税金を日本の法人税等から差し引けることとして,二重課税の解消を図っているということです。

    連載 第6回 で見たとおり,日本企業に対して海外PEが認定された場合の二重課税についても,同様に,この外国税額控除制度の仕組みで排除されます。

    3.日本企業とその海外子会社との間の二重課税の問題

    (1)二重課税の発生

    上記2.のロイヤルティに対する課税とPE認定の例は,日本企業が海外と日本で二重課税を受けるケースであり,これは「同一企業に対する二重課税」と整理できます。

    一方,日本企業が海外に子会社を持っている場合,日本企業とその海外子会社との間で二重課税が発生するケースもありました。つまり,同一企業ではなく,「グループに対する二重課税」ということです。このような二重課税を発生させる税制の典型は,連載 第812回 で見た移転価格税制です(連載 第13回 の国外関連者に対する寄附金の問題も同様です)。

    移転価格税制とは

    移転価格税制とは,日本企業とその国外関連者(海外子会社など)との取引について,取引価格を独立企業間価格で計算し直して課税所得を計算するものであり,国外関連者との取引を通じた恣意的な所得移転の防止を目的とした税制です。

    日本の税務当局から「日本親会社に配分される所得が少なすぎる」として,日本企業に移転価格税制に基づく課税が行われた場合,もともと海外子会社に配分されていた所得を日本親会社に配分し直すわけですが,海外子会社ではその部分に対してはすでに納税済みです。それを日本側でもう一度課税されることになるので,グループとして二重課税になるという整理でしたよね(図3参照)。

    図3 移転価格課税→グループ内の二重課税

    移転価格税制のほかでは,連載 第1415回 で見たとおり,タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)でもこのタイプの二重課税が発生します。

    タックス・ヘイブン対策税制とは

    タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは,低税率国に所在する海外子会社(外国関係会社)を利用した租税回避行為を防止することを目的として,低税率国の海外子会社の所得を日本親会社の所得と合算して,日本で課税する税制をいいます。このタックス・ヘイブン対策税制は,CFC税制と呼ばれることもあります。

    海外子会社は,低税率とはいえ現地で納税をしている場合があります。タックス・ヘイブン対策税制による合算課税が行われた場合,その同じ所得に対して,日本でも(日本親会社が)課税されることになるので,海外子会社と日本親会社の間で二重課税が発生するということです。

    (2)二重課税の緩和・排除

    (1)の移転価格税制についていえば,グループ内取引については利益の総額は一定なので,理屈としては「日本企業の所得増=海外子会社の所得減」となるはずです。しかしながら,日本と海外は税法が別なので,日本の税務当局による移転価格課税は,そのままでは海外子会社の所得には影響しません。そのため,このような移転価格課税は相互協議(に基づく対応的調整)という枠組みで緩和・排除する必要があります。

    相互協議とは

    相互協議とは,主として移転価格税制について,二重課税の排除のために租税条約締結国の税務当局間で行われる協議をいいます。

    対応的調整とは

    対応的調整とは,関連者の一方(日本親会社または海外子会社)が移転価格課税(増額更正)された場合に,相互協議における合意に従い,他方の関連者に対して還付(減額更正)を行って二重課税を排除することをいいます。

    この点は連載 第10回 で確認しましたが,相互協議に基づく対応的調整による二重課税の排除のイメージは,図4のとおりです。

    図4 相互協議(対応的調整)による二重課税の排除

    一方,(1)のタックス・ヘイブン対策税制については,合算課税の対象となった金額に対応する外国法人税の額を,日本親会社が納付したものとみなして,日本親会社で外国税額控除を適用することができます。

    シンプルにいうと,海外子会社の現地での納税と日本親会社に対する合算課税で二重課税になるので,海外子会社の納税を日本親会社の納税とみなして,日本親会社で外国税額控除の対象にするということです。少しややこしいですが,これにより二重課税は解消されることになります。

    4.そもそも二重課税を発生させないようにする制度

    上記2.と3.は,「いったん二重課税を発生させてから,それを緩和・排除する」という流れでした。

    これに対して,そもそも二重課税を発生させないようにする制度もあります。そのような制度の代表例は,連載 第7回 で確認した外国子会社配当益金不算入制度です。

    外国子会社配当益金不算入制度とは

    外国子会社配当益金不算入制度は,端的には,「外国子会社」からの配当を原則として95%益金不算入とするものです(ただし,配当源泉税は純粋な税務コスト)。つまり,外国子会社から配当を受け取っても,日本ではほとんど課税が発生しないということになりますが,これは,外国子会社が海外で課税されているので,そこからの配当は日本ではあまり課税しないという趣旨です。

    外国子会社配当益金不算入制度の下では,日本側での課税がほとんどないので,そもそも二重課税が発生しません(課税は主に海外側で行われます)。このような課税方式を,外国税額控除方式に対して,国外所得免除方式と呼びます。

    少し趣旨は異なるのですが,移転価格リスクを事前に回避するための手段として,事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)についても,二重課税の発生を防止する制度と整理できます。

    APAとは

    APA(事前確認)とは,独立企業間価格の算定方法の合理性等につき税務当局が事前に確認する制度をいい,企業が確認された内容に基づいて申告を行う限りにおいて,基本的に移転価格課税は行われません。つまり,税務当局のお墨付きをもらうということであり,相互協議という形で,取引の相手方の所在地国の税務当局も巻き込んで,海外における移転価格課税のリスクも排除できる二国間APAという形をとれば,移転価格リスクはほぼ完全に排除されます。

    つまり,APAについては,先に所得配分の合意を取ってしまうことで,後々その再配分により二重課税が発生することを回避しているわけです。

    以上のように,国際税務の諸制度は,「二重課税を発生させる制度」・「二重課税の排除のための制度」・「二重課税を発生させないための制度」というように,「二重課税」との関係で整理するのがわかりやすいと思います。

    5.条文を確認することの重要性

    少し話が逸れますが,本連載では,「海外子会社」という表現をよく使ってきました。一般に,「子会社」は議決権ベースでは50%超(「関連会社」は議決権ベースで20%以上)を所有する会社を意味します。

    お伝えしておきたいのは,これは説明の便宜上そうしていただけで,実際には移転価格税制であれば「国外関連者」,タックス・ヘイブン対策税制であれば「外国関係会社」,外国子会社配当益金不算入制度であれば「外国子会社」のそれぞれの定義を考えなければなりません。

    自社の持株比率だけでいうと,移転価格税制上の国外関連者は50%以上,タックス・ヘイブン対策税制の外国関係会社は10%以上,外国子会社配当益金不算入制度の外国子会社は基本的に25%以上(租税条約により10%以上等のケースもあります)が基準になります。

    そうすると,海外にある「子会社」は,国外関連者・外国関係会社・外国子会社に該当するケースがほとんどだと思いますが,逆に国外関連者であれば,「子会社」ではなく,「関連会社」もその範囲に含まれます(例えば,50:50のJV)。このように,各税制の適用範囲を考える上では,用語の定義をよく確認する必要があります。

    そういった定義の問題も含めて,日本の税法が問題になる場面では,実際に法人税法や租税特別措置法の条文を読んでみることが大切です。本連載では条文番号などの記載は意図的に避けてきたのですが,それは,難解な条文に対する皆さんの拒絶反応を避けるためであり,実務では条文を確認することは必須だと思います。

    6.最後に

    これで本当の最後です。

    国際税務の問題は,日本の税法と海外の税法が別個に存在することにより生じる二重課税の問題なので,連載 第2回 でお伝えしたとおり,日本の税法については日本の専門家に,海外の税法については海外の専門家に確認する必要があります。実務上はこれが結構大変で,多数の国にまたがる取引については,取引に関係する国の数だけ税法があるため,それぞれの国の税法を検討しなければならないということです。

    例えば,A国に中間持株会社を設立し,B国とC国の事業子会社の株式をその中間持株会社に移転する場合,日本の税法のほか,A国・B国・C国の税法も確認する必要が出てきます。海外の会社が何十社も関係する再編などは,考えるだけでも頭が痛いです(専門家への報酬を考えると懐も痛みます)。

    また,本連載では,二重課税の問題に加えて,二重非課税の問題も扱いました。BEPS(Base Erosion and Profit Shifting),つまり,「税源浸食と利益移転」の問題ですね。国ごとに税法が存在するということは,やり方によっては,逆に「二重非課税」の状況も作り出せるということでした。

    日本も加盟しているOECD(経済協力開発機構)では,このBEPSに対応するための行動計画を取りまとめており,連載 第23回 で見たとおり,その内容が移転価格税制やタックス・ヘイブン対策税制といった分野で,日本の税制改正にも反映されています。

    そして,連載 第22回 で確認したように,近々(おそらく2023年度税制改正で),デジタル課税等に関する新しい国際課税の枠組みが,日本の税制にも反映されることになります。国際税務の勉強は,きっといつ始めても大変ですが,大きく制度の枠組みが変わるタイミングは,後発組にはチャンスです。何年か先には,「え? PEなければ課税なし? それっていつの話ですか?」みたいな状況になっているかもしれません。

    このように,国際税務に携わっていると,日本の税制改正の先行指標という意味でも,OECDなどにおける議論は無視できません。そういった情報収集や海外子会社の担当者とのコミュニケーションには英語力も必要になるので,月刊『国際税務』の「国際税務の英単語」という連載も役に立つときがあるかもしれませんね(と宣伝させてください)。

    本連載はこれで最後です。2年以上の期間にわたりお付き合い頂き,本当にありがとうございました。またいつか皆さんと,ウェブ上で,あるいはどこかのセミナー会場でお会いできる日を楽しみにしています。

    佐和 周