[全文公開] アングル タナぼた相続人
税理士 川田 剛
はじめに
英国の有名ドラマ「名探偵ポワロ」には、本来であれば相続人でない者が遺言で莫大な財産を取得したりする例が頻繁に出てくる。このような者は一般に「笑う相続人(laughing heir)」と称されている。
英国の相続制度
英国や米国などのようないわゆるコモン・ローの国においては、被相続人の意志が極めて重要視されている。
その結果、たとえ相続人であったとしても、遺言に反し自己の相続分等の主張をすることは認められていない。その点で、わが国やドイツ、フランスなどのように、相続人の順位や相続分について全て民法で規定されているものと異なる。しかし、遺言万能とされている米国や英国などにおいても、実際に遺言を残している人達の割合は意外に少なく、被相続人の半分近くの人は、無遺言のまま相続に至っている。
そこで問題となってくるのが、そのような場合における相続財産の相続人間における配分をどのようにすべきかということである。
それは、一部分の財産(例えば土地)のみについて遺言が残され、他の部分について言及がない場合も同様である。
無遺言又は部分無遺言の場合
法定相続制度や遺産分割協議制度がない国において無遺言で相続が発生した場合、相続財産の受益者となることができるのは、生存配偶者と被相続人の子供である。
また、被相続人に子供がいなかった場合には、両親が、それもいなかったときは兄弟姉妹(両親を同じくするいわゆるwhite blood)が、それもいなかったときにはその他の者が相続人となる。この点については、基本的にわが国の民法と同様の扱いとなっている。
ただし、相続人のなかに18才未満の者がいるときは、その者が18才になるまでは相続受益者としての資格は確定しないこととされている。
また、配偶者の場合、被相続人の死亡後28日以上生存していることが必要とされている。そして、裁判で別居が認められているような配偶者の場合にあっては、その権利もないとされている。その点で、相続発生時に相続人の権利、義務関係が確定する(ただし胎児にあっては生きて生まれることが必要)こととされているわが国民法の考え方と異なっている。
なお、一部の財産についてのみ遺言が残されていた場合にあっては、遺言で指定された財産以外の部分は無遺言の場合と同様の取扱いとなる。
タナぼた相続人
日本の場合、たとえ遺言があったとしても法定相続人による「遺留分減殺請求」という制度があるので、いわゆるタナぼた相続人のメリットはかなり減殺される。
しかし、英国(米国も)では、遺言があれば、たとえその者が死亡した被相続人と特別な関係がなくても、被相続人の有する全ての財産を手に入れることが可能である。そのような観点からこれらのドラマをみてみると、ポワロ・シリーズがより深く楽しめるようになると思われるがいかがなものであろうか。