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[全文公開] アングル 米国における非上場同族会社持分等の評価

 税理士 川田 剛

( 68頁)

はじめに

非上場会社である同族会社の株式の評価には、明確な市場価額が存在していないため、税務上種々の困難が伴う。

そのため、わが国では、「財産評価基本通達 昭和39年4月25日直資56、直審(資)17」(174~189-7)により、統一的な評価基準を定めるとともに、総則6項を設け、同通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額については、国税庁長官の指示を受けて、評価することとしている。

このような同族会社に係る株式等の評価の困難さは、米国においても同様である。

しかも、米国においては、法人の設立は、各州法によって若干異なっていることから、連邦税法上それらの評価を統一的に行うことは、より一層難しくなっている。

そこで、今回は、米国において採用されている非上場同族会社等の持分評価方法(Valuation of Closely Held Business Entity)について紹介する。

非上場会社等の持分(株価)の基本的な評価方法

連邦税法における非上場会社等に係る持分(株式)の評価は、基本的には、次のような諸要素を考慮したうえで行うこととされている(内国歳入法第2031条、2512条及び財務省規則§20、2031‐1~6、25と§25、2512‐1~4、6(b)ほか)。

① 所得の資本化...評価対象となる同族会社等の毎年の所得を資本化したもの(一般的にはDCF法により算定)

② 地代、家賃等の公正市価の資本化...毎年の適正賃料収入等をDCF等により資本化

③ 同族会社等が所有している土地等...原則として簿価。ただし、州当局が財産税の課税目的等で別途評価額を定めているときはその土地評価額

なお、類似の同族会社が有していた事業目的等の土地の売却事例があれば、それらも参考にされる

④ その他、同族会社の財産持分評価において用いられた公正市場価格(fair market value: 以下、単にFMVという。)があれば、それらも参考にする

取引事例等のない非上場同族会社の持分(株式)の評価

それらの評価のうち、最も問題となるのが、同族会社の同族株主が有する株式に係る公正市場価格(FMV)の算定についてである。

これについては、わが国のように財産評価通達による一律評価ではなく、事業の内容に応じ、おおむね次のような要因を考慮して決定することとされている。

① 事業の性質(vature)及び事業創設以来の歴史(history)

② 経済全般の今後の見通し及び業界特有の見通し(outlook of Specific industry in particular)

③ 相続(又は贈与、世代とばし)発生時における当該同族会社の「簿価」及び「業界の動向等」(financial condition of the business)

※わが国の財産評価通達でいう「資産比準要素」に近いが、将来性も加味されるという点でわが国の通達でいう評価方法と異なる。

④ 当該同族会社の「収益稼得能力(earning capacity of the company)」

※わが国の財産評価通達でいう利益比準要素

⑤ 「配当支払能力(dividend-paying Capacity)」

※わが国の財産評価通達でいういわゆる配当比準要素。ただし、実績配当でない点に要注意

⑥ 当該同族会社における「のれん(goodwill)その他の無形資産(other intangible Value)」の存在の有無

⑦ 過去における売買実例又はブロック化されひとかたまりとなった株式評価等を受けた事例等の有無

⑧ 同一事業に属している会社等で、公開市場等で活発に取引されている株式等の株価(actively traded in a free and open market)

※わが国の財産評価通達でいう類似業種比準の株価。なお、同族会社株式が公開市場で取引されることは殆んどないので、米国では、一般に、類似業種の株価の取引価格から30%程度ディスカウントした価格が用いられている。

合意による評価額の決定

このように、米国においても、一定の評価基準や評価方法等に関する定めはあるものの、わが国の財産評価通達によるような統一的な基準は設けられていない。

そのため、実務においては、IRSとの間で、同族会社に係る「合意による評価方式(Closely Held Business Valuation by Agreement)」が利用されている。

ちなみに、そこでなされる評価は、基本的には内国歳入法第2703条により計算される。その会社を清算するとしたら株主に配分されるであろう市場価格(market value and Liquidity)である。

(注)この記事を書くに当たっては、①For Estate & Gift tax, Law Review Publising, ISBN.1-887426-38-8及び②Federal wealth Transfer Taxation G.Cases and Mater; als, 6th Edition, P.R.McDowelほか著、Fondation Press,2009(PartVIII Valuation)を参考にした。