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富裕層の相続の法務と海外の相続税 第1回 世界の富裕層の分布と日本における富裕層に対する各種の規制

国際課税研究所 首席研究員 矢内 一好

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1 富裕層の相続問題の重要性

国際税務において、OECDによるBEPS行動計画の一環としてのデジタル課税の次に焦点となるのは、富裕層に対する税務問題です。

ロシアのウクライナ侵攻に伴う各国の経済制裁のうちに、ロシアの富裕層の国外資産の差し押さえ等がニュースになっています。スイス銀行協会は、スイスの銀行が預かっているロシアの顧客の資産は、約2,130億ドルになると推計しています。これとは別に、ロシアの富裕層などが暗号資産を使い、ウクライナ侵攻で科された制裁を回避して資産を安全な場所に移すため、中東の金融ハブであるアラブ首長国連邦に押し寄せているという報道もありました。これはほんの一例で、ロシア以外の富裕層も海外に資産を分散してリスクヘッジをしていると見ることができます。

この問題のポイントは3つあります。1つ目は世界の国々の約半分に相続税制がないという現実です。このことは、富裕層のタックスコンプライアンス(遵法性)を低下させる要因となっています。2つ目は、相続税課税の特徴は、法人税・所得税のように内容に汎用性がなく、案件ごとにその内容が異なり、一般的な原則に基づく処理が難しく、各国のさまざまな...