[全文公開] アングル 米国の非課税・免税団体
税理士 川田 剛
はじめに
わが国の税法では、「公共法人」は法人税を納める義務がないとされ( 法法4 )、「公益法人等」又は「人格のない社団等」についても、収益事業を行わない限り法人税の納税義務を負わないこととされている(同①)。また、これらの団体に対する寄附についても、一定の限度内ではあるものの、原則として所得からの控除が認められていて(例えば 所法78 、 法法37 、 措法40 、 70 ほか)、これと同様の措置は、米国でも講じられている。
しかし、なかにはそれらの特典を悪用しているのではないかとされるような事例も散見される。そこで今回は、米国の非課税、免税団体について紹介する。
米国の非課税、免税団体の概要
米国の団体(法人のみでなくパートナーシップ、信託等も含まれる)のうち、内国歳入法で非課税、免税の特典が付与されているのは、基本的には第501条で規定されている26種類の団体のみである。
これらの団体には、退役軍人の地方組織など特別法に基づく法人等もあるが、最も多いのは、慈善、宗教、教育等といった公益等を目的とする団体である。
(注)具体的には次のような団体である(主なもののみ)。
1.特別法による法人(IRC第501条(e)(1))
2.公益団体(同条(c)(3))、これがもっとも多い。
3.市民団体(同条(c)(4))
4.企業団体、商工会議所等(同条(e)(6))
5.共済組合(同条(c)(8))
6.1980年前に設定された在郷軍人会(同条(c)(23))
7.宗教、信仰団体(同条(a))
8.協同組合方式による病院(同条(e))
9.政府機関(IRC第170条(e)(1))
これらの団体は、それらの団体が得る所得に対する課税がないことから、内国歳入法上「非営利団体(non-profit charitable organization)」と称されている。
ちなみに、IRSの資料(publication5331(Rev. 12-2018)catalog No.72046)によれば、2015課税年度において、この種の団体として(IRSにIRC第501条該当として非課税、免税団体に該当するとして)届け出ている団体は、1,184,547団体(注)あり、それらの団体の総資産額は3.8兆ドル、それらのうち、実際に収入があったとIRSに申告していたのは298,440団体だったということである、また、総収入金額は2.9兆ドル(うち寄附金収入は4300億ドル)に達している。
(注)この数は、かつては200万件近くあったようであるが、2008年に、IRSがそれまで届出不要とされていた年間収入2.5億ドル以下の規模の団体にFormC-Sという簡易様式による届出を義務付けるとともに、3年間その届出をしなかったときは非課税資格を取り消すこととしたことから、大幅に減少している。
(参考)規模別にみた非課税、免税団体の概要(2015課税年度、資料出所:IRS)
(参考)IRC第501条(c)(3)(川田注:公益団体要件)に規定する公益目的事業
慈善(Charitable)* |
*慈善の定義(IRC501(c)(3)-1(d)(2)) ・貧困・障害・被差別への支援 ・宗教普及 ・教育学術増進 ・公共建築物、記念碑、造作物の建立維持 ・政府負担の軽減(となる事業) ・隣人との緊張緩和 ・偏見差別の排除 ・法律で保障された人権・市民権の擁護 ・コミュニティの環境悪化、青少年の非行防止 |
宗教 |
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教育 |
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学術 |
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文学 |
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公共安全テスト |
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国内外アマチュアスポーツの普及 |
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児童・動物への虐待防止 |
資料出所:公益法人協会の米国助成財団調査ミッション報告書:「米国の公益非営利団体及び非課税団体について」(公益法人協会)より抜粋・一部修正
*ただし、①これらの要件を充足していれば自動的に公益認定団体となるわけではなく、IRSへの届出が必要である。②また、これらの要件を充足する団体であっても、公益目的と関係ない事業(unrelated business)から生じた所得については課税対象となる。
その他の規制
なお、IRSから非課税、免税団体としての資格を付与されている場合であっても、それらの団体が、ロビーイングなどの政治活動や特定の候補者の支援、特定個人への教育費支給などといったいわゆる課税対象支出(taxable expenditure)をしていた場合には、IRSは、これらの団体に与えられている非課税、免税特権を取り消すことができることとされている。
非課税、免税団体への寄附に対する税務上の取扱い
前述したように、IRSに非課税、免税団体として届出をし、IRSから承認を受けた団体(いわゆる適格組織(Eligible organization))は、「原則として法人税の課税対象にならない(IRC§501)。
それらに加え、これらの団体の活動を支援するため、外部の者がこの種の団体に寄附をした場合には、慈善寄附金(charitable donation)として、所得からの控除が認められている(IRC§170)。控除限度額は、個人の場合にあっては、調整後総所得金額(AGI)の50%までとなっている(同条(b)(1)(A))。(注)
(注)ただし、寄附先が、この種の団体でなく、法人等が個別に設立したいわゆる「私的助成型財団(private nonoperating foundation)」である場合には、控除限度額は調整後総所得の30%までとされている。
あとがき
米国のこのような事例からすれば、最近わが国で問題となっている旧統一教会などは、「政治活動を行っている」として非課税特権が認められなくなると思われる。宗教法人について収益事業のみに着目して課税にするか否かを判断することにしているわが国の制度についても見直しが必要になってきているのかもしれない。