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国際税務研究 タックス・ヘイブンのペーパー子会社を利用した粉飾決算

青山学院大学 名誉教授 渡辺 淑夫

( 130頁)

設例

 日本法人であるA社は、創業者一族が全株式の過半数を有する同族会社で、主としてヨーロッパの高級アンティーク家具類や美術品その他の室内装飾品などの高級アンティーク雑貨類の輸入販売業を営んでおり、業界ではかなり著名な企業として知られる存在であるが、三代目の経営者に当たるB氏は、A社を一日も早く同族経営から脱皮して、行く行くは上場企業としてさらに発展させるべく、日夜腐心しているところである。

しかしながら、 如何いかん せん、このところの世界経済の減速と日本国内の消費需要の低迷で、A社の事業業績は悪化の一途を辿り、さらに最近の急激な円安の進行で商品の輸入価格の上昇がこれに追討ちをかけて、業績反転の いとぐち すら見えない状況になっていて、このままでは早晩赤字転落が必至の状態にある。

他方、A社では、ヨーロッパの主要国に商品の買付けを専門とする現地子会社数社を有するほか、オークション市場などにおいて身許を明らかにしないで買付けをする時にダミーとして利用するなどの目的で、タックス・ヘイブン国であるC国にペーパー・カンパニーであるD社を100%子会社として有しており、利益が出れば合算課税の対象にもして...