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[全文公開] アングル 著作隣接権・パブリシティ権(Right of Publicity)と税務

 税理士 川田 剛

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はじめに

音楽・アニメ・映画・マンガ・小説等の作品は、制作した人が、それぞれ自分の想いや感情を作品として表明したものである。

それらを創作した人(著作者)は、作った物(著作物)について、法律上一定の権利が与えられている。それらの権利は、一般に「著作権(Copyright)」とされ、本人の許可なく他人がこれを利用することは法律上禁じられている。

「著作権」の範囲については、ドイツやフランスなど大陸法の国のように、これを広くとらえる考え方と、英米法などのように狭義にとらえる考え方とがある。また、これを「人格権」としてとらえる考え方と「財産権」としてとらえる考え方とがある。このうち、税務上問題となってくるのは、主として「財産権」に関してである。

なかでも、米国などで最近注目を集めるようになってきているのが、有名人の写真やフィルム等の使用に係るパブリシティ権(right of publicity)である。

有名人のパブリシティ権が問題とされた事例

事例その1...ジェームス・ディーン

「エデンの東」でデビューし、1955年に24才の若さで亡くなったジェームス・ディーン(James Dean)のパブリシティ権は、2015年現在で850万ドル(約1200億円)に達するとみられていたが、1991年、ワーナー・ブラザーズは、本人のサイン、写真等の使用権は全て会社側にあるとして、ジェームス・ディーン財団を訴えたが、カリフォルニアの連邦地裁は同社が有している権利は映画のフィルムとそこに映されている画像だけであり他の権利は全て同財団にあると判示している。 (注)

(注)ちなみに、カリフォルニア州法ではこの権利の存続期間を、通常の著作物と同じく70年としている。

事例その2...マーロン・ブランド

「欲望という名の電車」や「ゴット・ファザー」「地獄の黙示録」などで主役を努めたマーロン・ブランド(Marlon Brando)の財団は、歌手のマドンナが彼のマネをしていたとして彼女を訴えている。

また、財団は、オートバイメーカーのハーレーダビッドソンが「The Brando」という名の製品を無断で製造販売していたとして同社を訴え、35.6万ドル(約500万円)の賠償金を得たとのことである。

事例その3...マリリン・モンロー

ニューヨーク・ヤンキースのジョー・ディマジオと結婚し、新婚旅行で日本に来たマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)の財団は、彼女の死亡後にパブリシティ権をタテにニューヨークの裁判所に対し、他の者が彼女の写真やイメージの使用差止めを求める訴えを提起している。

しかし、彼女が死亡時にカリフォルニアに住んでいたことから、ニューヨークの裁判所はこの訴えを却下している。

事例その4...ダイアナ王妃

ダイアナ王妃(Princess Diana)の遺産財団は、記念コインや記念メダルの製造・販売業者として著名なFranklin Mint社が彼女の似顔絵と名称を用いた商品を販売していたとして、1998年にカリフォルニアの連邦地方裁判所に対し、同社が肖像権等を侵害しているとして、販売の差止めと損害賠償を求める訴えを提起した。

しかし、裁判所は、彼女の名前とイメージは「あまねく知られている」としてその訴えを退けている。

税との関係

移転価格税制でもたびたび問題になっているように、無形資産の評価には困難が伴う。これは、無形資産の一種であるパブリシティ権についても同様である。

そこで、以下ではこれらの権利が税務上問題とされた事例について紹介する。

その1...M・ジャクソン

例えば、有名歌手M・ジャクソンの場合、彼の遺産財団は、その価値を2,105ドルとして遺産税の申告をした。それに対し、IRSは、その価値は4.34億ドル(約500億円)あるのではないかとして争いとなった。この事案では、IRSとの間で結果的に1.61億ドル(約200億円)という評価額で決着したとのことである。

その結果、同財団の遺産税評価額は10億ドル強から13億ドルとなったとのことである。

その2...V.C.アンドリュース

「屋根裏部屋の花たち」などの大衆小説の作家として知られるV.C.アンドリュースは、いくつかの作品について邦訳もされているので、ご存知の方も多いと思われる。彼女は、本人の死後においてもゴースト・ライターが彼女の名でいくつかの作品が発表されていたことでも知られている。このような状況をふまえ、IRSは、彼女の名に124万ドル相当の資産的価値があるとして課税したことから係争となった。

この事案を審理したヴァージニア連邦地方裁判所は、本件資産には、ゴースト・ライターの作品かもしれないとするリスクがあるとして、IRSの評価から30~40%相当の減額をすべしとしている。

ちなみに、この事案では、出版社が、いくつかの作品について、彼女自身の手によるものでないと知りつつ、彼女の名を付した作品であれば確実に多額の売上げが見込めるとして、彼女の死亡後であったにもかかわらず、いくつかの作品について、彼女の作品であるかのようにしていたとのことである。

しかしながら、このような問題点はあったとしても、彼女の作品に相応の財産的価値ありとしたIRSの目の高さは、評価されるべきものであろう。