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[全文公開] 書評 下岡 郁著 『日中主要税法比較~差異の認知で外国税法を理解~』(2023年7月25日刊行/中央経済社)

国際課税研究所 首席研究員 矢内 一好

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中国の経済の現況は、不動産不況や人件費の高騰等、明るいニュースが少なく、脱中国という動きも一部に生じている。しかし、日本企業の海外拠点数では、中国が全体の4割強、2位の米国の4倍というのが実態である。

これまで、中国の税制については、日本の税法専門家、中国側の税法専門家等の著書が多く刊行されているが、本書の著者は、日中双方の税法及び実務に精通しており、それらを複眼的視点から解説していることから、その意味では本書の内容はこれまでにない画期的ものということになる。

本書の構成は、第1章総論、第2章法人税と企業所得税、第3章消費税と増値税、第4章所得税と個人所得税、第5章資産税、第6章香港の税制及びクロス・ボーダー組織再編であるが、これらの各章には、実務上誤解されやすい事柄をわかりやすく説明した「そうだったのか」欄が15項目、コラムが9項目ある。この「そうだったのか」は、著者が実務で得たノウハウともいえる知見が記述されており、税の専門家でも注目する内容ではないかと思われる。

上記の章立てからも推測できるが、外国税制という場合、所得税、法人税、その他の諸税という並びにあるのが一般的であるが、本書は、増値税が2番めに置かれている。中国投資あるいは中国の税制では、増値税は大変重要な税目である。本書のコラム5「なぜ『増値税法』ではなく、暫定条例なのか?」は著者の独自の視点からの解説であり、読んでみて、まさに「そうだったのか」と教えられる内容である。

さらに、第6章「日本企業の中国地域統括会社」では、中国本土の統括会社と香港の統括会社の比較で、香港の統括会社は持株機能を持つことができるが、中国ではその例は少ないということが指摘され、最後に、日中クロス・ボーダー組織再編の問題点と今後の税務対応が説明されている。特に、本書の第3章及び第6章は、著者独自の視点が強調されている。中国税務に関係する多くの方々におすすめしたい良書である。

(国際課税研究所首席研究員 矢内 一好)