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軽課税所得ルール(UTPR)の仕組みと議論の動向について

長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士 南 繁樹

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第4 UTPRに関する議論の動向

3 UTPRを違法とする立論(承前)

(3) 財産権の侵害

ア 欧州人権条約

前回第2回目 で紹介したHongler等論文では、C国がUTPRを適用してC1社に対して課税を行う場合、それはC1社に対する財産権の侵害になるのかが論じられている(編注:C1社に係る本件設例の内容は、 月刊国際税務2024年4月号の46、47頁 をご覧下さい。)。論者は欧州人権条約第1議定書第1条 や欧州人権裁判所の判例を引用し、課税は原則として財産権を侵害することが推定され、以下の3つの基準から正当化されるのでない限り、財産権の侵害が肯定されるとする。

課税が財産権の侵害とならない基準

① 予測可能で正確な法的根拠があること。

② 公共の利益に合致すること。

③ 納税者の利益と公共の利益の均衡が取れていること(比例原則)。

そして、論者は、UTPRはこれらの基準を充足しない可能性があると主張する。特に、上記③の比例原則に関しては、課税を受ける納税者(C1社)の相対的な税負担が高いほど財産権侵害とされる可能性が高くなる。実効税率15%そのものは高くないはずだが、個々の法人(C国のC1社)のみに着目し...