※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] アングル IRS、マイクロソフトに対し28.9億ドルの移転価格課税

 税理士 川田 剛

( 78頁)

▶はじめに

以前この欄でも何回かにわたって紹介してきたように、IRSでは、世界最高収益を得ている多国籍企業に対する移転価格調査を強化してきている。

そして、それらのうちのいくつかについては、訴訟にもなっている (注)

(注)例えば、コカコーラ社に対する33億ドル(約4,900億円)の追徴課税については、租税裁判所でもIRSの主張が認められている。しかし、同社はこの判決を不服として現在控訴中である。

そのような状況の下、先般マイクロソフト社に対し、史上最大規模の仮更正通知(いわゆる30日レター)が発出された。

そこで、今回は、その概要について、マスコミ記事及び同社2023年10月11日付けホームページ上で公開している反論等もふまえつつ紹介する。

▶マスコミ報道から

マスコミ報道によれば、IRSは、マイクロソフト社の2004年~2013年分の申告内容に誤りがあったとして、本税のみで28.9億ドル(約4兆円)の仮更正通知書(Preliminary Notice)を発出したとのことである (注)

(注)本件調査の過程で、IRSはマイクロソフト社に対し、連邦情報公開法(Federal Freedom of Information Act)に基づき、約5万ページ弱にのぼる情報提供要請を行ったものの、同社が拒否したことから、IRSがその開示を求めて連邦地方裁判所に提訴した。裁判所でIRSの主張が認められたため、同社はそれらの資料を提出したとされている。

今回の仮更正通知は、いわゆる「30日レター」と称されるものであり、最終的な更正通知ではないが、後述するように、会社側はこの通知に争う姿勢を示していることから、最終的には法廷の場で争われることになりそうである。

マイクロソフトのホームページより抜粋

今回のIRSの仮更正通知に対し、マイクロソフト側では、税務担当副社長(D.Goff)名で、大略次のように述べ、IRSの不服審査部(Appeals)で本件について争う姿勢を見せている。

①「本日(2023年10月11日)、当社は、IRSから受けていた税務調査について、その背景及び我々が考えている次のステップにつき、最新の情報を共有する。」

②背景及びIRSの調査

「当社の財務諸表でも公表しているように、当社は、2004年以降最近10年近くにわたり、国外関連者との間の所得及び経費の配分問題につき、IRSから調査を受けてきた。」

「その過程で、当社が組織変更を行っているので、IRSから要求されている資料提出問題は現行の実務(practice)と無関係である。」

「IRSは、最近、当社に対し、2004年分~2013年分の申告につき、仮更正通知(Notice of proposed Adjustment: NOPA)を出してきた。」

「IRSによれば、その内容は、本税28.9億ドル(ペナルティ、延滞税は別)になるとのことである。しかし、今回のIRSからの通知は、最終的な更正通知書(川田注:いわゆる90日レター)ではない。」

「当社は、この通知(いわゆる「30日レター」)に不服であることから、異議申立てを行うこととしているが、解決までには数年を要するものと見込まれている。」

「当社は、この間670億ドル(約10兆円)を超える税を米国政府に支払ってきた。」

「今回の仮更正は(国外関連者との間の)移転価格税制に基づくものであるが、当社は、従来よりコスト・シェアリングに関し、法令に従った処理をしてきた。」

「今回IRSが問題ありとしているコスト・シェアリング契約は、知的財産に係る関連会社間の所得配分に関し、多くの多国籍企業が採用してきているやり方であり、当社のやり方も、IRSの定めた規則に従ってきている。」

③今後のステップ

「当社が採用している(川田注:コスト・シェアリングに関する)手法は、IRSのルールに適合したものであり、過去の判例(Case law)においても認められてきたやり方である。」

「当社は、今回IRSから仮更正通知を受領したが、今後IRSとの間で合意に達するべく努力していくとともに、その段階における未解決部分につき、場合によっては裁判の場で争う可能性もある(Opportunity to contest any-unresolved issues through the Court)。」