[全文公開] Topics Plus No.5 パートナーシップは「組合」か?…法律に規定のない取引への対応!
税理士 遠藤 克博
執筆者経歴 東北大学経済学部卒業、1978年 東京国税局入局。1990年 国税庁調査課からロンドン長期出張、1997年~1999年 税務大学校研究部教育官、2000年~2003年 東京国税局調査第一部国際調査課課長補佐、2003年~2006年 税務大学校国際租税セミナー担当教授。2008年 税理士登録、2009年~2020年 青山学院大学大学院国際租税法客員教授、2010年~ 上場企業の社外役員。 主な著書「海外取引の税務Q&A」「税理士のための国際税務の基礎知識」(税務研究会)、「BEPS文書作成マニュアル(共著)」(大蔵財務協会)など著書多数。 |
税務行政における国際協力の輪
2023年7月、「岸田総理大臣がNATOの首脳会議に出席し、日本とNATOの パートナーシップ 計画に合意」という見出しが新聞に掲載されました。1986年に発足したG7は、G8を経て、G20に発展し、主要国首脳会議として、世界の平和と経済発展に関して意見交換が重ねられています。
税務行政においても、長年の間、ハイレベル会合である環太平洋税務長官会合等をはじめ、各国の調査官が調査事例を発表するレベルの会合(7か国調査官会合)に至るまで、各階層の情報交換の歴史が重ねられてきました。その積み重ねが実を結ぶ形で、OECD税務長官会合、アジア税務長官会合などの国際協力の輪がひろがり続けています。
国際協力の“Key word”は、“Partnership”ですが、私たち税理士が扱う事例でも、“ パートナーシップ ”が出てきます。任意組合、匿名組合といった共同事業体を英訳すると“partnership”です。
●パートナーシップのいろいろな形態
税法上「組合」という用語は、個人や法人が資金や労務、ノウハウなどを出資して、これを活用して事業を行い、事業で得た利益を出資者に分配する事業形態と定義づけられます。法人格を持たない共同事業の主体のことです。身近な例では、建設業において、A社、B社、C社がジョイントベンチャー方式で事業を請け負い、事業から得られた収益を配分するビジネスモデルがあります。また、各種の製品の展示即売会を開催するにあたり、事業組合を組成し、事業組合が一旦組合員から製品を購入し販売する方式を採用する場合もこれに該当します。金融商品の投資ビークルとしてパートナーシップを組成し、投資利益を配分する事例もあります。
パートナーシップと組合には納税主体とされるものとパススルーされるものがある!
税法を学習する方や、晴れて試験に合格して、さあこれから実務で頑張ろうという方に、シニア税理士として、一つ大切なことをアドバイスしたいと思います。税務相談に対応する際に押さえておいていただきたい最重要ポイントのことです。それは、「この取引は、どの取引関係者にどのような税の問題を生じさせるか?」という問題意識です。個人、法人とは異なる納税義務者である事業体にパートナーシップがあり、その課税関係を理解することはプロへのステップです。
ひとつの取引事例をご紹介します。
「食品輸出を行うA社は、金融機関の仲介で、東京の取引先で組成されたB組合に出資し、有力なベトナム企業からの受注を、B組合を通じて受けることになりました。」
この取引を図解すると次のようになります。
B組合がパートナーシップです。パートナーシップが任意組合として組成された場合、納税主体になるか否かは、組成された国の税法により異なります。納税主体と位置付ける国では、B組合が納税義務者として法人税(所得税)を申告します。一方、各組合員を納税主体とする国では、契約で定められた各組合員への分配損益を、各組合員は自社の損益として財務諸表に計上し、各組合員が組合からの分配損益も含めて申告します。
●解釈指針は法人税基本通達
歴史的には、欧米で発展したビジネスモデルが日本に導入されたものと思われます。税務上の取扱いも、欧米での実務を参考に定められていますが、法人税法上には定めがなく、法人税基本通達に解釈指針が示されており、実務はこれに従っています。法人税基本通達の目次を見ると、第14章の「特殊な損益の計算」の第1節に「特殊な団体の損益」として組合事業の損益の取扱いが記載されています。
外国および日本のパートナーシップそれぞれの投資における課税
(1)外国パートナーシップへの投資にかかる課税問題
居住者、内国法人が外国で組成されたパートナーシップに出資した場合、パートナーシップからの分配損益が、居住者、内国法人の損益として認識され、課税所得を構成します。当時執行上大きな問題となったのが、外国パートナーシップからの巨額な分配損失が、出資者である内国法人の巨額な利益と相殺されて、申告されていた事例でした。
当局は、外国パートナーシップの決算書の正確性を確認し、損益の確定、出資者への分配損が正規の手続きを経て実行されたのか否かの事実確認をしなければなりません。一方、商取引の世界では、ビジネス上の手続きや税負担を含む経費を削減し、投資効率を最大化するスキームとして選択されたのがパートナーシップです。運営主体が日本国内にあれば、情報の入手、確認にも方法がありますが、運営主体が外国にある場合には、事実確認が極めて難しくなります。外国法人に出資して、配当を受ける場合とは異なり、パートナーシップの場合は、事業活動に伴う損益、財産・債務を出資者に帰属させますので、本来、当局は、パートナーシップから配分された損益、財産・債務を投資主体である内国法人の損益、財産・債務と同じように調査しなければなりません。読者の皆さんが予想されるとおり、内国法人に保管されている範囲でしか、事実確認ができなかったのが現実でした。
当時開催された国税庁主催の調査担当官の会議では、組合やパートナーシップ、信託といったパススルー課税に関して、税務調査で把握された多様な問題点が議論されていました。執行サイドの日々の悪戦苦闘が国税庁の調査課を窓口にして、立法当局及び通達作成部署に情報があげられていたものと推測します。
(2)日本のパートナーシップへの投資にかかる課税問題
組合(パートナーシップ)に外国の投資家が出資した場合の課税関係は、法人税基本通達に定めがありますが、組合からの分配利益について、当時は、任意組合からの分配には源泉税の課税はなく、匿名組合からの分配については一定の要件の下で源泉課税がされていました。日本国内の事業で匿名組合が稼得した100億円の利益が外国の投資家に分配される場合、国内法では源泉徴収により20%の課税があるのですが、例えばオランダとの租税条約が適用されると、相互免除の条項があるため、源泉徴収をしなくてよいこととされていたのです。国際課税に精通した多国籍企業は、オランダに出資法人(ペーパーカンパニー)を置いて、無税で巨額なパートナーシップからの分配利益を享受していました。問題意識をもって現状を観察しないと、国益を左右するような潜在する問題点が見えてきません。国内法と租税条約の解釈適用、その前提となる事実認定(所得の種類は何か?)が絡む、難しい課題でしたが、これも近年になって、抜け穴がなくなる措置が講じられたようです。
税務大学校のシンクタンク化
税務大学校は、現場経験者を教授、教育官として登用し、税務調査で直面した課税問題を、国内法、外国法、国際法等を念頭に多角的に分析し、深めるシンクタンクという位置付けに進化してきたように思います。
昭和、平成、令和と時代が流れ、税務行政の執行の最重要課題も国益に照らして変化を余儀なくされてきていました。職員教育、研修を考えるリーダーは、いち早くどのような能力のある人材育成が喫緊の課題であるのかを考え、手を打ったのだと思います。また、税務大学校における研究テーマについても、現状分析、問題点の把握、解決策の立案、実行という「ミッション成功のためのプロセス」をしっかりと認識し始めたのです。
その結果として、国際租税法を勉強した多くの職員が定年を前に、大学の講師や大手の税理士法人等の専門家に転職するようになりました。国税庁の人事担当の方には頭の痛い話かもしれませんが、国税庁の人材育成プログラムの社会的評価が極めて高いことを示しているのも事実です。
●社会人大学院での教鞭経験
筆者は、社会人大学院で国際租税法、税務調査事例を教えたことがあります。大学院の内側からカリキュラム、講師陣、学生のニーズといった現実を観察すると、次のようなことが見えてきました。(会計、税務の即戦力となる)学生にとっては、まず、講学的な基礎のしっかりした理論の講義が重要です。そのうえで、現実の事例を基にした法令の解釈、適用、訴訟、判例といった正確な情報に基づく、的確な解説が必要です。そのようなニーズを念頭に講師陣を見直してみると、大学当局の人事の工夫がよく見えてきました。これからも、修士課程、博士課程を経て研究者となる人材と、実務の世界から講師となる人材が両輪となって、質の高い教育の機会を提供していくものと思います。
エピソード
筆者は、30代と50代に合計5年間、税務大学校に勤務した経験があります。国際租税法の研究論文執筆と、国際租税セミナー担当の教官が本務でした。1998年に「企業の海外投資をめぐる会計監査と税務調査の接点」というテーマでパススルー事業体の研究を行い、「パススルーエンティティをめぐる国際課税問題」という研究では、事業体の選択と国際税制との関連性を研究しました。節税と租税回避の違いが論じられた時期でした。当時は、国際金融の世界で活用されていた取引スキームの中に、パススルー事業体が登場していました。
税務調査で対面する外資系金融機関の日本人担当者には、語学に堪能な公認会計士や税理士の有資格者が多く、顧問の税理士も、語学力と金融の知識を備えた国税OB税理士でした。日本で稼得した利益が資金を出している外国(時にはタックスヘイブン)のぺーパーカンパニー等に移転するスキームについて、当時の税法には適用できる個別否認規定がなかったため、「同族会社に行為計算の否認」規定を趣旨解釈して議論をしたことが思い出されます。
筆者は当時「税法、通達の規定が追い付いていないから」という弱音を内心に持っていたのは事実です。一方、最近直面する事案では、現職の後輩調査官は、先輩たちの姿勢を受け継いだのか、法令の趣旨解釈を拠り所に、頑張っている姿を見かけます。
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