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[全文公開] 書評 矢内 一好・高山 政信・廣瀬 壮一 著『スピードマスター 国境を越えて働く人の税務100』(2024年9月24日刊/中央経済社)

シティユーワ法律事務所 弁護士 酒井 ひとみ

( 29頁)

ビジネスにおいては、大企業に限らず、中小企業から創業間もないスタートアップ企業でも海外進出が当然の時代になっている。また、子に国際教育を受けさせることを主目的として海外移住を選択するファミリーもおり、そのような国際的教育を受けた子は、将来的にもグローバルに活躍の場を広げる。親子それぞれが別の国で居住し、家族のイベントのために中間地点で集合したり、退職した親が子のいる国を順々に訪問するというファミリーも珍しくない。このように、人がグローバルに移動する現代社会では、国籍や各国における在留資格の問題が生じ、また、人と一緒に資金が動けば、税務、給与・報酬、社会保障の問題が発生する。このようなグローバル・モビリティにより生じる問題は、日本法だけでなく関係各国法及び国際条約が絡む複雑な問題である点が厄介といえる。

本書は、グローバル・モビリティより生じる様々な問題点を100項目抽出し、税務を中心にまとめた解説書である。本書を海外に出向する日本人従業員や海外から日本の会社に出向する外国人従業員を抱えるすべての会社担当者に薦めたい。

タイトルは、「国境を越えて働く人の税務」とあるが、取り扱っている問題は税務だけではない。①他国で働くための基礎知識、②インバウンドの人的交流、③アウトバンドの人的交流、④他国での活動で生じる税への租税条約等の適用、⑤国際相続と税、という5つのテーマにわけて、「国籍と市民権の違い」、「ビザと在留資格」といった法律上の基本的な問題から、「租税条約と国内法の適用関係」といった国際税務の複雑な問題まで、1項目見開き2ページでコンパクトに解説されており、多くの問題点を網羅的にカバーしなくてはならない特に会社総務・人事部担当者には必携といえる。関係各国の法制(帰化・長期在留要件)も網羅されているため、実際に日本から海外駐在・海外移住を予定されている方だけでなく、専門家としてグローバル・モビリティ支援に取り組んでいる方等幅広い層にも読んでいただきたい一冊である。

(シティユーワ法律事務所 弁護士 酒井 ひとみ)