[全文公開] 年頭所感『税理士の若年層不足や複雑化する税制等諸制度への対応』
日本税理士会連合会 会長 太田 直樹

新年あけましておめでとうございます。令和7年の年頭に当たり、皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年は、年明け早々に能登半島地震が発生し、会員を含め多くの方が被災されました。改めてお見舞いを申し上げますとともに、早期の生活再建と事業再開に向け、本会としても力を尽くす所存です。
さて、近年の税理士を取り巻く環境は、高齢化や若年層の不足といった構造的な課題を抱える一方で、デジタル化や複雑化する税制等諸制度への対応など、社会から求められる役割が増大しており、令和5年7月の会長就任以降においても、この傾向はより強まっています。
本会は、税理士一人一人がその使命と職責を適切に果たせるよう、様々な課題に対処していますが、新たな課題も次々に顕在化しており、そのいくつかは、いまだ解決への道を模索する最中にあります。令和7年においても、これらを着実に克服すべく、引き続き諸施策を積極的に講じることとしています。以下にその一端をご紹介いたします。
若年税理士の創出
税理士の平均年齢が60歳を超え、30歳代以下が1割にも満たない中、税理士制度を将来にわたり維持・発展させるために、若年税理士の創出が喫緊の課題となっています。令和4年税理士法改正による受験資格要件緩和の効果で、税理士試験において若年層の受験者数が増加してはいるものの、楽観できる状況にはありません。昨年から、従来の広報施策に加え、有識者の助力を得て高等学校にて税理士の魅力に係る講演を実施する試みを開始したところですが、本年においても、若年層が税理士を選択するための様々な施策を実施してまいります。
同時に、税理士試験について、合格者の質を担保しつつ、より受験しやすい内容となるよう、時代に即した抜本的な見直しを検討してまいります。
税制改正
本会は、税理士法に規定された建議権に基づき、毎年、権限ある官公署に対して税制改正建議を行っており、令和7年度税制改正においても、財務省主税局、国税庁、総務省自治税務局等に建議書を提出しました。また、政府税制調査会においては、特別委員として、建議書に基づき意見を表明しているところです。
建議書は、担税力に即した公平な税負担、中立的で簡素な税制、合理的な事務負担、時代の変化に適合する税制、透明な税務行政という5つの基本的視点に基づき、業界利益のためではなく国民・納税者のために取りまとめられたものとして、内外から高い評価を得ており、毎年、多くの項目が実現しています。今後とも、税務に関する専門家として、国民・納税者が納得して申告・納税できる税制の実現を求めてまいります。
一方、税制改正が国会の場で決定されることを踏まえれば、建議実現のためには日本税理士政治連盟との連携が不可欠です。税理士制度の維持・発展にとっても、その存在意義は極めて重要です。政治連盟の重要性を会員に伝えることに努めるとともに、税制改正等において多くの成果を上げることで、その意義を訴えてまいります。
新時代における税理士の業務
遺言や民事信託を活用した財産承継を主とする相続対策事業が広がりを見せる中、税理士は、相続税申告のみならず、そこに至るまでのあらゆるライフイベントにおいて依頼者を的確に支援していく必要があります。人生100年時代を見据えた付加価値の高い税理士の業務の実現に向け、会員支援策を検討してまいります。
また、税理士の業務のデジタル化についても、引き続き重要な課題であることから、全国15税理士会及び一般社団法人日税連税法データベースと連携して運営しているデジタル相談室の更なる充実を図るとともに、デジタル化に資する有益な情報を引き続き提供してまいります。
持続可能な会務運営
税理士の社会的な地位の高まりに応じて会務の量が増大しており、また、近年の物価高騰の影響もあり、とりわけ税理士会支部においては、人材面と費用面で大きな課題を抱えています。少子高齢社会の中で起こる会員数の減少も見据え、本会と税理士会、あるいは税理士会と支部との間における会務分担の整理・合理化を進め、会務が過重な負担とならないような措置を講じるとともに、若手会員や女性会員などの多様な人材が会務に参加しやすい環境を整備してまいります。この点、まずは本会において本年7月から開始する女性の会務参加を促進するための積極的改善措置(クオータ制)の円滑な導入に向け注力いたします。
一方、費用面の課題についても、財政の安定化に向けて、あらゆる角度から検討を続けてまいります。
今後とも、税理士法第1条に規定する税理士の使命を踏まえ、税務支援や租税教育等の社会貢献、研修や綱紀保持といった会員自身を律する取組み等を通じて、国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するため全力で諸課題に取り組んでまいりますので、皆様の更なるご理解とご支援をお願い申し上げ、新年のご挨拶といたします。