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[全文公開] 書評 金子 智朗 著『数学×会計』(2024年12月18日刊/税務研究会出版局)

日東電工株式会社 経理財務本部 フェロー 渡會 直也

( 109頁)

■グローバル・ミニマム課税に先行するIFRSの世界を支えているもの

現在の税務業界の関心の的であるグローバル・ミニマム課税は史上初の世界共通の税法ルールですが、10年以上前に制度会計の分野でIFRSという世界共通ルールが登場しました。世界各国の財務諸表を同じルールで活用できる土壌を投資活動のボーダーレス化が求めた結果ですが、各国にて慣習法的に醸成された会計ルールの世界共通ルールへの置き換えのためには合理性に裏付けられた強い軸が必要で、その合理性を支えたのが数学のロジックです。そうしたIFRSの裏側を専ら数学的な観点から金子先生が分かりやすく解説されたのが本書で、そんな感覚で読み進めると一層面白いはずです。

税務の観点からは、PARTⅡ『8.定率法の昔と今』にて、平成24年度税制改正での250%定率法導入の数学的な背景がよく分かりました。定率法償却に関して残存価額を0円(1円は備忘価額)とすると、従来の数学的なアプローチでは即時償却という答えしか得られないため、250%定率法という人為的なルールが必要だったのです。

本書で解説された新時代の制度会計ルールは、現在割引価値に代表されるキャッシュフローの見積りや価値評価計算が中核になっています。その一方で、令和元年度税制改正にてHTVI(評価困難な無形資産)に係る整備や、DCF法が移転価格算定方法のひとつとなる等、税務の世界にとっても価値評価計算は段々と身近になりつつあります。そのような税務の新時代が到来した際に、頼りになるのは数学の基礎的理解です。そこで数式の意味合いを常に完全に理解できる必要はありません。私は税法の条文について何となく分かっていればやがてもう少し分かるようになるだろう、という超楽観主義者ですが、本書の数学の説明にも同じことを思っています。本書での数式の展開が100%理解できなくても、結論へ至る道がなんとなく頭に入っているだけでも大きな意味があります。本書は数学の教科書ではないので、 『ツールに過ぎない数学は「そういうものか」とある程度割り切って、「分かったつもりになる」というのも、数学と上手く付き合っていくための一つのコツ』(13章) というような数学への“親しみ方”を認めながら、金子先生が分かりやすく数学の活用方法を解説されており、価値評価計算の重要性が増すであろう新時代の税務へ備える気になる、とてもお奨めの一冊です。

(評者:日東電工株式会社 経理財務本部 フェロー 渡會直也)