[全文公開] 一目でわかる中国☆国際税務教室 Vol.238 移転価格ローカルファイルをハイブリッドで作成する
上海ユナイテッドアチーブメント コンサルティング 代表 公認会計士・税理士 鈴木 康伸
今年もローカルファイル作成の季節がやってきた。
ローカルファイルの作成では、1)本社と現地でそれぞれ作成する二元型、2)基本的に本社主体で作成したものを加筆修正し現地言語に翻訳し使用する準一元型、3)現地法人主体で作成したものを日本側でレビューし完成させる逆一元型、の三パターンに分類されるのではないかと思う。日系企業では1)の二元型が多く、次に3)の逆一元型、最後に2)の準一元型といったところだろうか。2)が少ないのは日中の移転価格ローカルファイル作成基準や実務指針の違いか。一方、中国系企業グループでは欧州や東南アジアの子会社で使うローカルファイルを中国本社主導で作成する一元型が多いと聞く。
昨今のIT技術の進展とAIの進化を活用し、ここでは会社側として本社と現地法人、本社アドバイザー及び現地アドバイザーの四者をチームメンバーとして文書を作成するハイブリッド型の検討を提案したい。当地では30度を超える日が多くなってきており、これを片付けて夏休みの計画に着手するため、LF早期完成に向けて各プレーヤーの叡智を結集したい。今年は間に合わなくても来年の下地作りはしておきたいところだ。
まず、必要な環境は複数人でワードやエクセル等のドキュメントを同時編集できるプラットフォームだ。例えば、Teams(SharePoint)のサイトを立ち上げ、共有フォルダーにワード、エクセル、PDF等を保存する、OneDrive/Googleドライブ/Slackなどのファイルストレージを使い文書を共有する、といった方法がある。メールで文書を回しているのではスピード感がない。ハイブリッドでは共有環境は必須といえる。
次は市場/製品分析に使うAIだ。ChatGPT、Copilotもあるが、こと中国に限ってはやはりDeepSeekにホームアドバンテージがありそうだ。この点は後に詳述する。
ローカルファイルの項目毎に作業分担表を作成するとしたらこのようになるだろうか。
セクション | 項目 | 会社 | アドバイザー | コメント | ||
本社 | 子会社 | 本社側 | 現地側 | |||
第1章 | グループの概要 | |||||
1.1 | グループの概要 | ◎ | ○ | △ | ||
1.2 | 本社の概要 | ◎ | ○ | △ | ||
第2章 | 現地法人の概要 | |||||
2.1 | 現地法人の概要(設立/資本構成/組織図/従業員数等) | ○ | △ | ○ | 子会社担当が妥当だが人員手薄につき外注多し | |
2.2 | 現地法人の主要製品と販売状況 | ○ | △ | ○ | ||
2.3 | 現地法人の関連関係 | ○ | △ | ○ | ||
第3章 | 関連者間取引 | |||||
3.1 | 関連者間取引の概要 | ○ | ○ | ○ | ○ | フォーマットが一旦決まれば会社でも作成可能 |
3.2 | 移転価格ポリシーと適用状況 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
3.3 | 検証対象取引に係る事前確認 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
3.4 | バリューチェーン分析 | △ | ◎ | |||
3.5 | 地域固有の優位性分析 | △ | ◎ | |||
第4章 | 機能分析 | |||||
4.1 | 機能・リスク分析 | ○ | ○ | |||
4.2 | 使用する資産 | ○ | ○ | |||
4.3 | 機能・リスク及び使用する資産の分析結果 | ○ | ○ | |||
4.4 | 無形資産の形成への貢献 | ○ | ○ | |||
4.5 | 現地法人の位置付け | ○ | ○ | |||
第5章 | 事業方針 | |||||
5.1 | グループの事業方針 | ◎ | ○ | |||
5.2 | 現地法人の事業方針 | ◎ | ○ | |||
第6章 | 産業分析 | |||||
6.1 | グローバル市場の分析 | ◎ | ○ | △ | ||
6.2 | 中国市場の分析 | ◎ | △ | ○ | ||
第7章 | 経済分析 | |||||
7.1 | 移転価格算定方法の選定 | ○ | ○ | |||
7.2 | 検証対象の選定 | ○ | ○ | |||
7.3 | 取引単位営業利益法の適用(外部比較対象企業の検索) | ○ | ○ | |||
7.4 | 必要な修正と四分位レンジの決定 | ○ | ○ | |||
第8章 | 結論 | ○ | ○ |
◎は主体的作成者、○は次善作成者、あるいはいずれも同レベルの作成者、△は補佐的或いは代行作成者の意である。項目順にみていこう。
第1章「グループの概要(本社の概要)」は本社サイドの担当だろう。現地サイド(アドバイザー)は記述に(中国)現地税法の求める内容が充足されているかどうかの確認を行う。税務通達2016年42号公告 1 にローカルファイルの記載項目があり、所轄税務局は時にローカルファイル記載内容の自己点検表を現地会社に送付して提出を求めてくることがある 2 ので要注意だ。
第2章「現地法人の概要」は現地法人が主体的に作成する部分だろうが、手薄なため現実的には現地アドバイザーが代行することも多い。当分担表の第1章、第2章及び第5章、第6章に該当する“企業の概況”及び“関連関係”の自己点検表における配点は合計21ポイントとなっており、合格点が100点満点の95点と言われていることから記述漏れは避けたいところだ。
第3章「関連者間取引」はローカルファイルの中心的な記載内容であり、次第4章と合わせた配点は55ポイントもある。比較可能性分析のそれが10ポイントと意外に低く、当局が関連取引の詳細な記述をローカルファイルに求めていることがうかがえる。ここは現地サイドからでも本社サイドからでも起草することは可能である。また、一旦フォーマットが固まれば会社サイドで起草することもできよう。バリューチェーン分析やロケーションセービング、マーケットプレミアムの記述は専門家に委託が無難か。記載内容の現地側最終チェックは怠りなく行いたい。
第4章「機能分析」は専門的に過ぎることからアドバイザーサイドに任せた方が無難だろう。配点も20ポイント程度ある。一方、第5章は「事業方針」なので本社、現地法人それぞれの役割を会社サイドで記述できるだろう。
第6章「産業分析」ではAIを活用する。試しに「中国自動車市場の概況を分析せよ」とざっくりDeepSeekに尋ねた結果(抜粋)は下記のとおりであった。
49サイトを取捨選択して11サイトから関連する情報を文字数800字、A4で2ページの説明文にまとめてきた。自動翻訳機能で日本語化したものがこれである。
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1、市場全体の動向
1.販売台数と成長率
○ 2025年1~4月:乗用車累計小売販売台数は687.2万台(前年比+7.9%)、4月単月では175.5万台(前年比+14.5%)を記録し、過去最高水準を更新。
○ 新エネルギー車の浸透率上昇:4月の新エネルギー乗用車小売浸透率は51.5%、卸売浸透率51.7%に達し、市場成長の主力となった。
○ 輸出動向の二極化:1~4月の乗用車輸出は155万台(前年比+1%)。新エネルギー車が輸出の44.6%を占め(自主ブランド新エネルギー車輸出は+86%)、一方で従来型ガソリン車輸出は13%減少。
2.生産と在庫管理
○ 4月の乗用車生産は223万台(前年比+11.2%)、メーカー在庫は12万台増加し、過去5年間の同期比在庫減少傾向から転換。
○ 新エネルギー車生産は115.1万台(前年比+40.3%)で、乗用車総生産の51.6%を占め、産業チェーンの電動化が加速。
2、新エネルギー車と自主ブランドの台頭
1.自主ブランドの優位性
○ 4月の自主ブランド小売シェア65.5%(前年比+8%ポイント)。BYD・吉利(ジーリー)・奇瑞(チェリー)・長安などが新エネルギー車と輸出で成長を牽引。
○ 技術優位性:自主ブランドの新エネルギー車浸透率72.8%(外資系ブランド6.8%)。BYDなどが世界販売トップ10入りし、国際競争力を強化。
2.新エネルギー車種の構造変化
○ BEVとPHEVの並行拡大:4月のBEV卸売シェア63.5%、PHEV28.4%、レンジエクステンダー8.1%。小型EV(A00/A0クラス)が46%を占め、普及を推進。
○ ハイブリッド市場の急成長:2024年ハイブリッド車販売725.2万台(前年比+66%)。PHEVが71%を占め、2030年市場規模4兆元超の見込み。
3.輸出市場の拡大
○ 新エネルギー車輸出比率44.6%に上昇(ロシア・東南アジア・欧州が主要市場)。BYD・奇瑞が海外工場建設で現地化を推進。
3、市場構造の変化と課題
1.ガソリン車市場の縮小
○ 高級車小売(4月)は前年比-18%、外資系ブランドシェアは独系15.6%・日系12.2%に後退。価格競争が激化するも販売減を止められず。
○ ガソリン車の収益圧迫:2024年自動車業界利益率4.3%。「値下げ販売」で在庫調整する企業が増加するも、長期的競争力に懸念。
2.販売網の再編
○ 2024年に約4,000の4S店が撤退。2025年は新エネルギー提携(例:華為問界)や直販モデルへの転換が加速。BMWは「販売量抑制・価格維持」戦略でディーラー利益を確保。
4、業界の課題
1.価格競争の激化
○ 2024年自動車業界:収益+4%・利益-8%。新エネルギー車企業は販売増も利益難(電池コスト高・車両単体赤字の矛盾)。
2.サプライチェーンと技術格差
○ 車載半導体などの重要部品で輸入依存。ガソリン車技術(ハイブリッド・合成燃料開発)の高度化が急務。
5、将来展望と政策
1.CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)の融合
○ 2025年自動車電子市場規模1.28兆元予測。V2X(車路雲一体)や自動運転技術の標準化が加速。
2.政策支援と消費高度化
○ 買換え政策が消費を刺激(4月購入者の70%が対象)。公用車の新エネルギー車調達比率30%以上義務化。
3.グローバル展開の深化
○ 海外工場建設・ブランド買収を通じ、新エネルギー車輸出比率の更なる拡大が見込まれる。
総括
2025年の中国自動車市場は新エネルギー車がガソリン車を代替する転換期に突入。自主ブランドが技術革新とコスト優位性で主導権を掌握。今後は知能化・サービス化への転換が加速する一方、価格競争・技術格差・グローバル競争への対応が課題となる。政策誘導と技術革新が持続的成長の鍵を握る。
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専門用語が多く翻訳には自信がないと謙虚な前置きがあったが、日本語的にも違和感なく読める水準に達しているのではないだろうか。あとは事実関係の確認であるが、URLがあるので出所に辿り着くことも難なくできそうだ。深掘りの程度はCopilot 3 やChatGPTと大差ないようにみえる。ただし、参照先のサイト数がCopilotで21サイト、ChatGPTで10サイト 4 であるのに対し、DeepSeekの49サイトは際立っている。やはり中国語ベースの調査では強みがある。さらにDeepSeek(Chat-R1)の突出点は、その名の通り“深度思考”(考察プロセス)が表記されるところにある。49のサイトから情報を抜き出しまとめるにあたってどのような思考に基づいているのか、を説明しているのだ。中国語原文と自動翻訳した日本語は以下の通りである。
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嗯,用户今天需要分析中国汽车市场的发展概况。让我先看看提供的搜索结果里有哪些相关信息。首先,网页1提到2025年4月份全国乘用车市场的零售数据,同比增长14.5%,累计增长7.9%,自主品牌份额增长到65.5%。还有新能源渗透率达到51.5%。这些数据应该很重要,说明市场整体增长,自主品牌和新能源是主要驱动力。
网页3也提到自主品牌零售销量增长到115万辆,市场份额65.5%,同比增长8个百分点,比亚迪、吉利这些头部车企表现不错。这里可以强调自主品牌的崛起,尤其是在新能源和出口市场的表现。
网页4和网页6讨论了新能源汽车行业的现状和挑战,比如价格战和内卷式竞争,利润率下降。虽然产量增长,但盈利的企业不多,这说明行业竞争激烈,需要转向技术创新和服务。这可能要作为挑战部分提到。
网页5和网页7提供了3月份的销售数据,显示新能源车生产增长,出口增加,尤其是比亚迪和奇瑞在出口方面表现突出。还有汽车电子行业的发展,市场规模到2025年预计1.28万亿元,动力控制系统占比较大。这部分可以结合智能化和电动化的趋势。
网页8关于混合动力汽车的情况,2024年销量超过700万辆,渗透率23%,插混占主导。这显示混合动力在过渡期的重要性,可以补充在新能源部分。
网页10提到经销商数量触底反弹,传统经销商转向新能源销售,豪华车市场下降,燃油车面临压力。这可能要放在市场结构变化里,说明渠道转型和燃油车的困境。
综合这些信息,我需要分几个部分来组织回答:市场整体表现、新能源与自主品牌的崛起、市场结构变化、面临的挑战、未来趋势。每个部分都要引用多个网页的数据,确保覆盖全面。
例如,在新能源部分,需要提到渗透率51.5%(网页1)、出口增长(网页1、3、5)、混合动力增长(网页8)等。自主品牌部分引用网页1、3、5的数据,说明他们的市场份额和出口情况。
挑战部分包括价格战(网页4、6)、利润率低(网页4、10)、燃油车下滑(网页10)。未来趋势则涉及智能化、汽车电子(网页7)、出口潜力(网页3、5)、政策支持(网页7、9)等。
需要注意每个要点都要有对应的引用,比如13,避免重复引用同一网页,同时确保信息准确。可能还需要整合不同网页提到的类似数据,比如新能源渗透率在多个网页都有提到,需要确认是否一致,或者是否有不同角度的信息。
最后,结论部分要总结整体趋势,强调自主品牌和新能源的主导地位,以及行业转型的必要性。可能还需要提到经销商转型和燃油车的未来,结合网页10的内容。
检查是否有遗漏的重要信息,比如汽车电子行业的市场规模(网页7)、混合动力的具体情况(网页8)、出口数据(网页1、3、5)等,确保覆盖用户可能关心的各个方面。
中国自動車市場分析に関する考察プロセスの日本語訳
ユーザー要件の整理
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1.情報抽出のポイント
● ウェブ1:
○ 2025年4月の乗用車小売販売:前年比+14.5%、累計+7.9%
○ 自主ブランドシェア65.5%、新エネルギー車浸透率51.5%
→ 市場全体の成長と自主ブランド・新エネルギー車の主導性を示す決定的データ
● ウェブ3:
○ 自主ブランド販売115万台(シェア65.5%、前年比+8%ポイント)
○ BYD・吉利(ジーリー)の優れたパフォーマンス
→ 新エネルギー車と輸出市場での存在感を強調すべき
● ウェブ4/6:
○ 新エネルギー車業界の課題:価格競争の激化・利益率低下(生産増も利益企業は少数)
→ 技術革新とサービス転換の必要性を「課題」セクションで言及
● ウェブ5/7:
○ 新エネルギー車生産増・輸出拡大(BYD・奇瑞が顕著)
○ 2025年自動車電子市場規模1.28兆元、動力制御システムが主要分野
→ 知能化・電動化トレンドと連動
● ウェブ8:
○ 2024年ハイブリッド車販売700万台超(浸透率23%、PHEVが主流)
→ 過渡期におけるハイブリッド技術の重要性を補足
● ウェブ10:
○ ディーラー数が底打ち後回復傾向(新エネルギー販売へ転換)
○ 高級車市場縮小・ガソリン車苦戦
→ チャネル変革とガソリン車の苦境を「市場構造変化」で解説
2.分析フレームワーク構築
● セクション分割の戦略:
1.市場全体の動向
2.新エネルギー車と自主ブランドの台頭
3.市場構造の変化
4.業界の課題
5.将来トレンド
● データ連携の具体例:
○ 新エネルギーセクション:
✓ 浸透率51.5%(ウェブ1)
✓ 輸出成長(ウェブ1/3/5)
✓ ハイブリッド拡大(ウェブ8)
○ 自主ブランドセクション:
✓ シェア65.5%(ウェブ1/3)
✓ 輸出戦略(ウェブ5)
○ 課題セクション:
✓ 価格競争(ウェブ4/6)
✓ 利益率4.3%(ウェブ4/10)
✓ ガソリン車衰退(ウェブ10)
○ 将来トレンド:
✓ 自動車電子1.28兆元(ウェブ7)
✓ 輸出ポテンシャル(ウェブ3/5)
✓ 政策支援(ウェブ7/9)
3.注意すべき検証ポイント
● データ整合性の確認:
○ 複数ウェブで言及される「新エネルギー車浸透率」の数値矛盾がないか(例:ウェブ1の51.5% vs 他ソース)
● 情報カバレッジの担保:
✓ 自動車電子市場規模(ウェブ7)
✓ ハイブリッド車詳細(ウェブ8)
✓ 輸出データ(ウェブ1/3/5)
● 引用管理の厳格化:
○ 同一ウェブの重複引用を回避(例:ウェブ1のデータを複数セクションで使用時は「ウェブ1」と1回明記)
4.結論設計の方向性
● 自主ブランドと新エネルギー車の支配的優位性を強調
● 業界構造転換の必要性(ディーラーモデル変革・ガソリン車撤退)
● 政策支援(買換え制度・公用車調達基準)と技術革新(全固体電池・LiDAR)のシナジー効果
最終チェックリスト
● 全ウェブの重要データが反映されているか(例:ウェブ10のディーラー数回復)
● トレンドと課題のバランスが取れた構成か
● 数値引用に齟齬がないか(例:ハイブリッド車販売700万台はウェブ8のみのデータか)
この思考プロセスを基に、ユーザーが求める「体系的でデータ駆動型」の分析レポートを構築できます。追加要件があれば具体化可能です。
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日本語訳せよと指示しただけなのに箇条書きにして出してきた。さらにウェブサイト間の数値の矛盾など要確認ポイントまで示唆している。DeepSeek優秀すぎだろう!
現地市場の動向は現地語で検索することで調査も深みを増す。その意味でグローバル市場であれば英語、日本中心の市場動向なら日本語で、ChatGPTやCopilotを使うということにアドバンテージがあるだろう。
業界情報などは会社の方が詳しいはずなので、これまで専門家任せにしてきた当セクションをAIを駆使して会社主体でまとめられてはどうだろうか。
第7章「経済分析」及び第8章「結論」部分は専門家に任せることがほとんどだろう。
ここで注意したいのは現地側と本社側の税制と実務の違いにどう対応するか、という点である。ここでは比較対象会社の経営場所に対する日中当局の考え方の違いを考えてみよう。日本の当局は中国を経営場所とする子会社を検証対象企業とする場合、比較対象企業も中国で上場している会社に限定すべきという考えをとる。一方、中国の当局は上場中国企業の母数の現実的な限界から機能やリスクの近似する周辺国の上場企業に範囲を広げて比較対象企業利益率の四分位レンジを構成することに寛容である。選定候補企業数が少なければ四分位レンジの構成は難しくなるのであるから、ハイブリッドローカルファイルでは、中国向けLFの比較対象企業群は周辺国を含む広い範囲で選定し、日本向けLFではその中の中国企業群を用いてレンジを形成する。結果としてレンジに収まるようになっているなら双方良しとなる。
導入初年度の多大なる苦労は予想されるところではあるが、2年目以降の負担は相当軽減されると思うのだがどうだろうか。いずれにしてもLF作成プロセスの自動化/簡略化/負担分散化の流れにあるのは間違いないと思う。
1 中国国家税務総局HP https://fgk.chinatax.gov.cn/zcfgk/c100012/c5194659/content.html
2 詳細は 月刊国際税務2024年11月号 寄稿『移転価格ローカルファイルの記載内容の十分性確認』を参照されたい。
3 月刊国際税務2024年6月号 寄稿『生成AIに「AIはどのように移転価格文書化を自動化できますか?」と聞いてみた』を参照されたい。
4 内訳は政府系サイト4、経済誌系3、業界誌系3であった。