※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

トランプ関税と日本企業による移転価格対応(上)

外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一
外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 大沢 拓
Hotta Liesenberg Saito LLP パートナー 高名 祐治

( 36頁)

1 はじめに

2 問題の所在

(1)追加関税賦課前の前提事実

(2)追加関税賦課後の状況

(3)価格調整金の支払による対応

(4)4つの税務上のリスク

(5)本稿の検討対象

3 米国における関税制度の概要

(1)米国における関税評価の方法

(2)現実支払価格に基づく取引価格の定義

(3)現実支払価格に基づく関税評価のための要件

(以下次号、予定項目)

(4)CBPの近時の関税評価の実務

(5)事後的な価格調整と関税上の手続

4 本事例における対応策の検討

(1)米国移転価格税制の観点から

(2)日本の税制の観点から

(3)米国関税評価の観点から

(4)まとめ

5 おわりに

1 はじめに

トランプ大統領は、2025年4月2日、米国の巨額かつ恒常的な貿易赤字を是正するため、原則として全ての国から米国に輸入される貨物に対し高関税を課す大統領令に署名した 。同大統領令は、全ての品目につき10%の追加税率で課す相互関税に加えて、米国の貿易赤字額が大きい国・地域については、関税率をさらに引き上げることを内容としている。相互関税の国別追加分の税率は、日本に関しては24%とされている。4月9日の大統領令 により、国別追加分自体は90日間停止されたものの、10%は引き続き適用されることとなった

他方、5月28日に、米国国際貿易裁判所(United States Court of International Trade)は、相互関税を課す上記大統領令は、1977年国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act of 1977)によって大統領に与えられた権限を逸脱しており、無効だと判断し、10日以内の差止めを命ずる旨の判決を下した4。このため、トランプ政権は、同判決に対し即日控訴した上、上記差止め命令の一時停止を求めた。これに対し、連邦巡回区控訴裁判所(United Stat...