UTPRに関する欧州裁判の動向について
外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 片平 享介
1 はじめに
2021年10月、低い税率や優遇税制を利用した外国企業の誘致の活発化(いわゆる法人税引下げ競争)による弊害に対応すべく、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」に属する136か国(当時)は、グローバル・ミニマム(GM)課税の導入に合意した。GM課税は各国の国内法の制定を通じて実施される仕組みであるところ、EUにおいては、GM課税を実施するためのEU指令が全会一致で採択され、当該指令に基づく国内法が各加盟国によって整備されるに至った。かかるGM課税ルールのひとつであるUTPR(Undertaxed Profits Rule:軽課税所得ルール)に対しては、とりわけ米国の議員等から、課税権の域外適用であるという強い批判がなされていた。このような状況下、米国内のある商工会議所が、EU加盟国の一つであるベルギーにてUTPRの合憲性等を争う裁判(本件裁判)を提起したところ、2025年7月17日、ベルギー憲法裁判所は、UTPRを規定する上記EU指令がEU法に合致するか否かが先決問題として裁定されるべきとして、この問題をEUの最高裁判所である欧州司法裁判所に付託した。
本件裁判は、UTPR...