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[全文公開] アングル IRS新長官わずか54日で交代

 税理士 川田 剛

( 80頁)

▶はじめに

以前この欄で( 2025年2月号 )、米国のポリティカル・アポインティー(Political Appointee)に関する話をしたことがある (注)

(注)Political Appointeeとは、大統領によって指名され、上院の承認を経て任命される高級公務員のポストで、米国では約3,300のポストがその対象となっている。

その際、以前はIRSでは、税務署長クラスまでポリティカル・アポインティーとなっていた。そのため、税務を利用して「政敵たたき」をするリスクがあるとの批判を受け、現在では長官(Commissioner)と首席法務官(chief council)のみに縮少されたという件についても紹介した。

今回はその続編である。

▶IRS長官

2025年1月の第2次トランプ政権の発足に伴い、IRSの長官には、6月16日付でBilly Long氏が任命された。

しかし、それからわずか54日しか経過していない2025年8月8日、トランプ大統領は、同氏をIRS長官から解任するとし、マスコミもその旨の報道がなされている。

前回 紹介した際にも言及したように、トランプ大統領は、バイデン政権時代に、自分(トランプ)が「税務調査」を受けている旨を報じたマスコミ報道にノーコメントを貫きつつ、IRSが個別調査事案に関する秘密情報を漏らしたのではないかとして、IRSに対し、担当者の処分を求めていた。

もうひとつは、ハーバード大学等に対する免税資格付与の撤廃である。

周知のように、トランプ大統領は、同大学等が反イスラエルの姿勢を示したり、外国からの留学生を優遇しすぎているとして、それらの大学等に対する補助金をカットするとともに、大学が有している免税資格の取り消しを求めてきた。

マスコミ報道によれば、今回のLong長官の解任はそれとの関係があるのではないか、との見方もあるとのことであるが、詳細は不明である。

ただ、IRSでは、CFOや広報部長、リスク管理部長(Chief Risk Officer)など幹部職員が相次いで辞任したことなどからみて、このような報道に納得している関係者も少なくない。

※なお、Long前長官は、その後、アイスランドの大使に任命されている。そのため、この説に否定的な見方をしている者もいるようである。

ちなみに、Long長官の後任は決まっておらず、取りあえずベッセント財務長官がその職務を代行するとのことである。

(参考)IRSの組織図及び幹部名(2025年9月1日現在)

※二重線部分は大統領任命職(ただし、上院での承認が必要)