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[全文公開] アングル トランプ関税と連邦憲法

 税理士 川田 剛

( 94頁)

▶はじめに

「トランプ関税」は、わが国のみならず世界中に大きなインパクトを与えている。

他方、その法的有効性をめぐっては、現在連邦最高裁で争われている。この記事が出るころには結論が出ているかも知れない。

そこで、今回は、「関税と連邦憲法」との関係についてみていくこととしたい。

▶米国の大統領選出システム

なぜトランプ関税の法的有効性が裁判で争われることになるのか?

米国の大統領制は、議員の中から首相が選ばれる我が国や英国など(いわゆる議員内閣制)と異なり、議会の意見とは無関係で、各州がそれぞれの州議会が定める方法により、その州から選出される連邦上院議員(各州2名)と連邦下院議員(各州の人口により異なる)の数と同数の「選挙人(Electors)」の秘密投票によって選定されることとなっている(連邦憲法第2条第1節)。

その際、選挙人による投票で、いずれの大統領候補者も過半数の票を得られなかった場合、又は、その結果が同数だった場合には、連邦の下院が秘密投票により、そのうちの1名を大統領に選任することとなっている(同節第3項前段)。また、得票者の表中上位5名につき同様の方法により、下院が大統領を選任する(同項後段)。

ちなみに、大統領になるためには、出生による米国市民であって35才以上でなければならない(同節第5項前段) (注)

(注)南アフリカ生まれのE.マスクが大統領候補にならなかったのはそのためである。

また、過去14年間、合衆国内の住民であることももうひとつの要件として、必要とされている。

なお、大統領は、その職務遂行に先立ち、就任式において次のような「宣誓(Oath)」又は「確約(Assure mation)」をしなければならないこととされている(同節第8項)。

「私は、合衆国の大統領の職務を忠実に遂行し、全力を尽くして合衆国憲法を維持(Preservel)、保護(Proteet)し、擁護(Defend)することを誓う(I do solemnly swear or affirm)」。

▶大統領の権限

大統領の権限という点について、連邦憲法第2条第2節第1項では次のように規定されている。

第1項「大統領は、合衆国の陸海軍 (注1) 及び現に招集されて合衆国の軍務に服す各州民兵の最高司令官である (注2)

(注1)この憲法制定当時、空軍は存在していなかった。

(注2)州知事の意向の如何にかかわらず、大統領は州兵の指揮権を有しているという根拠規定である。

また、「大統領は、行政各部の長からそれぞれの部所の職務に関する事項につき文書により意見を徴することができる。(同項中段)」。

さらに、「合衆国に対する犯罪につき、弾劾の場合を除き刑の執行猶予及び恩赦を行う権限を有する(同項後段)」。

次いで、第2節第2項では以下の権限が付与されている。

①条約締結権

ただし、上院の助言と承認(3分の2以上)が必要

②大使・領事の任命 (注)

③最高裁判事の任命 (注)

④上級公務員の任命 (注)

(注)②~④については上院の助言と承認(過半数)が必要

これらの規定からも明らかなように、関税に関し、それが大統領の権限であるとする規定は見当たらない。

▶トランプ関税がなぜ裁判になるのか

連邦憲法第1条第8節第1項では、連邦議会の権限として、「租税」、「関税」、「加算税」、「消費税」の賦課徴収権があげられている。

これまでにみてきたところでも明らかなように、外交交渉や軍事力の行使に伴う指揮権の行使は大統領権限とされているものの、関税については少なくとも米国連邦憲法上は明らかに大統領にその権限はなく、連邦議会の権限とされている。

素人の目からみると、明らかにトランプ大統領のオーバーランであり、連邦最高裁での敗訴(違憲判断)が明らかなようにみえる。

しかし、連邦最高裁の全判事9人のうち6人が共和党系とされている状況下、ひょっとしたら別の判断が下されるかもしれない。

もし連邦最高裁で合憲という判断が下されるとしたらどのような根拠によりそのような判断になるのか興味深い。

国税の分野とは異なるものの、裁判の成行きが注目されるところである。