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[全文公開] Topics Plus No.13 「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」の創設

 税理士 遠藤 克博

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執筆者経歴

1978年 東京国税局入局。1990年 国税庁調査課からロンドン長期出張、1997年~1999年 税務大学校研究部教育官、2000年~2003年 東京国税局調査第一部国際調査課課長補佐、2003年~2006年 税務大学校国際租税セミナー担当教授。2008年 税理士登録、2009年~2020年 青山学院大学大学院国際租税法客員教授、2010年~ 電子機器メーカー、電子部品メーカー、外航海運業の社外監査役。

主な著書「海外取引の税務Q&A」「税理士のための国際税務の基礎知識」(税務研究会)、「BEPS文書作成マニュアル(共著)」(大蔵財務協会)など著書多数。

税制改正による納税環境整備のねらい

令和8年度の税制改正で注目される項目の一つに、納税環境整備の一環として導入された「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」制度があります。国際取引については、移転価格税制において、文書化義務が導入されて、これに従わないケースについては、税務当局が推定課税により課税処分を行うことができるとする制度設計がなされています。

国内取引について、取引に係る書類の保存義務を改めて規定するということの背景には、次のような経緯があったと想定されます。

☆税務調査時のやり取り

調査官 「この取引を証明する資料を提出してください。」

納税者 「書類は手元にはありません。」

調査官 「書類は保管している者に依頼して、入手してください。」

納税者 「書類の送付を依頼しましたが、先方が応じてくれません。」

従来の制度の場合、納税者は書類の提出のために、可能な範囲で入手のための努力を行い、それでも入手できない場合は、税務当局にその後の手続きは委ねられ、納税者が故意に書類の提出を拒んだ場合には、当局は入手可能な資料に基づき推定課税を行うことができます。

しかしながら、現実には、推計課税による課税処分の例は多くありません。その背景には、次のような現実があるからです。

1.推計計算と課税処分の手続きに手間がかかること

2.推計課税の経験者が少ないこと

3.推計課税の対象事案では、処分すべき課税所得金額がさほど多額ではないこと

今回の改正の背景には、第三者間の取引で作成される書類と比較して、企業グループ内取引で作成されてきた書類が簡易なものであったことが税務調査の現場で散見されたと推測されます。さらに、うがった見方をすると、税務処理の妥当性を判断するにあたり、自社に不利に働く恐れがある書類等については、納税者はあえて提出することはせず、その後の調査手続きを静観する選択をしていたのではないかとも思われます。

企業の会計、税務関係資料の保存については、国税庁から次のような情報が発出されています。

国税庁情報№5930「帳簿書類等の保存期間」

法人は、帳簿 (注1) を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類 (注2) を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間 (注3) 保存しなければならない。

(注1)「帳簿」には、例えば総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがある。

(注2)「書類」には、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などがある。

(注3)青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度または青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度においては、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)保存する。

上記の情報では、書類の記載内容等に関する当局の考えは明示されていません。

「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」制度

今回、特例が創設された背景には、企業グループ内の法人間等で行われるコストシェアリング取引において、その内容、金額が恣意的に調整され、利益調整に利用されている事例があったといわれます。コストシェアリング取引とは、企業グループ内の複数の法人が、研究開発、広告宣伝、ITシステム維持管理、総務・経理・人事等の管理業務等をグループ内の特定の法人に集約し、その業務に係る費用を一定の基準(売上高や人数等)に基づいて関係したグループ各社に配賦(請求)する取引を指します。

第三者間の取引においては、取引の内容と対価の額等を立証する文書等が作成され、保存されることが、税務調査を通じて徹底されてきましたが、企業グループ内取引にあっては、相互牽制の作用が機能せず、取引の実在を示し、計算の妥当性を説明する書類が残されていたとはいえないようです。国内取引については、費用負担の妥当性の議論は、 法人税法第37条 (寄附金の損金不算入規定)の認定の可能があるか否かが争われてきたといえます。

特例の概要

内国法人が「関連者」との間で「特定取引」を行った場合においては、その取引に関して、「取引関連書類等」に、その取引に係る対価の額を算定するために必要な事項(①及び②)を記載することとされました。

この記録がないときは、必要な事項を明らかにする書類を取得し、または作成し、これを保存することが義務付けられました。

1.その取引に関する資産または役務の提供の明細

2.その取引においてその内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細等

必要書類の取得・作成及び保存が法令の定めに従って行われていない場合には、青色申告の承認の取消事由となるとされました。

関連者とは

ここで、「関連者」とは、「移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する」とされました。詳細な取り扱いは、今後明確化されていくと思われますが、次のような関係が想定されます。

①親子関係

一方の法人が、他方の法人の発行済株式の50%以上を直接または間接に保有している関係

②兄弟関係

同一の者により、複数の法人の発行済株式の50%以上が直接または間接に保有されている関係

③実質支配関係

株式保有割合に限らず、役員の派遣、濃密な取引関係、資金調達に当たり支払保証等の依存があるなどにより、一方が他方を実質的に支配していると認められる関係

特定取引とは

「特定取引」とは、次の取引(販売費、一般管理費、その他の費用の額の基因となるものに限る)をいいます。

①その関連者がその内国法人に対して行う次の資産の譲渡または貸付け(工業所有権等に係る権利の設定等その関連者がその内国法人に工業所有権等を使用させる行為を含む)

イ.工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式またはこれらに準ずるもの

ロ.著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)

ハ.プログラムの著作物

②その関連者がその内国法人に対して行う役務の提供のうち次の取引

イ.次のいずれかの事業活動で、その内国法人とその関連者との契約または協定に基づきその関連者が行うもの

(イ)その関連者が有する産業、商業または学術に関する知識経験等その関連者が有する経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動

(ロ)その関連者が有する専用資産(専らその内国法人及び関連者の事業の用に供することを目的とする資産をいう)をその内国法人に使用させる行為並びにその専用資産の維持及び管理

ロ.その関連者がその内国法人に対して行う経営の管理または指導、情報の提供等の役務の提供でその関連者が有する産業、商業または学術に関する知識経験に基づき行うもの

ハ.上記イ及びロの役務の提供に類するもの

取引関連書類等とは

取得・作成及び保存が必要とされる「取引関連書類等」とは、次のようなものです。

取引に関して受領し、もしくは交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、その他これらに準ずる書類、またはこれらの書類に通常記載される事項が記録された電磁的記録で、法人税法及び法人税に関する法令の規定により保存しなければならないこととされているもの