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アングル 消費税の食料品減税に伴うもうひとつの実務上の問題点

 税理士 川田 剛

( 116頁)

▶はじめに

筆者は長い間税務行政に携わってきた。そして、そこにおける最大の課題とされていたのが、いかにして「適正公平な課税」を実現していくかという点である。そのためには、税務行政という執行面だけでなく、CFC税制、移転価格税制、国外転出時課税制度、国外財産調書制度などにみられる制度面からの手当ての必要性である。

しかるに、今回導入が検討されている食料品等に対する1%の軽減税率は、従来行われてきた執行面と制度面との調和関係を大きくゆるがすことになる可能性がある。

それは、標準税率との差が大幅に増大することにより、多額の税収減をもたらすだけでなく、それらの差を利用した租税回避行為へのインセンティブが増すと見込まれるためである (注)

(注)この種の行為は、納税者の立場からすれば「タックス・プランニング」として称されるものである。そして、このような考え方は、米国の裁判例においても「何人も法が要求する以上に税金を払うという公法上の義務を負うことない、…自発的に支払われるものでない(ので)…(川田注:課税庁側が)倫理の名においてより多くを要求することができないとすることは単なるまやかしにすぎないとされている(有名なLearned Hand判事による判決(Commissioner v. Newman.159. F. 2d. 848CCA-2,1947))。

換言すれば、税率差が拡大すればその差を利用することによる租税負担軽減効果がその分だけ大きくなるので、納税者による租税節約のインセンティブが増加し、それに対処するため、それらを監視する役目を負わされている税務行政当局の負担もその分だけ増加が見込まれるためである。

▶英国の事例から~サブウェイ事案判決~

周知のように、英国では、食料品のVAT税率はゼロとされているものの、レストラン等における飲食や店内消費については通常税率による課税が行われている。

そのため、店内で消費可能なものを購入し、それを店内で消費せずに持ち帰った場合、どのような扱いになるのかという点が問題となっていた。

サブウェイ事案では、販売者である会社側は、顧客が店内で消費することなく持ち帰っているので、たとえそれらが温かい状態で店内での消費が可能だったとしてもゼロ税率の対象になるとしてVATの納付は行っていなかった。

それに対し、課税庁(HMRC)側がそれらの品物は冷凍食品などのように持ち帰りを前提としたものではなく、顧客の注文を受けてから店側で商品を温め、そのままの状態で食べられるようになっていることから、VATの取扱上もゼロ税率ではなく標準税率の対象になるとして更正し、その処分が裁判でも認められている。

(詳細については、Subway v. Commissioner HMRC 2014 EWCA. C. U. 773. Case No. A3/2012/3400を参照されたい)

▶わが国の取扱い

わが国でも食料品について8%の軽減税率導入時に、軽減税率か標準税率の10%かが問題となり、国税庁から「消費税の軽減税率制度に関するQ&A・(制度概要論)」(平成28年4月公表、平成30年1月及び令和2年9月改訂)」により周知が図られてきたという経緯がある。

しかし、その時の標準税率との税率差がわずか2%だったということもあり、それほど大きなトラブルは生じなかった。

しかし、今回、税率差が9%となるので、どちらに区分されるかにより、負担に大きな差が生じることになる。

従前と同じ区分方式を継続するのか否か、早急な対応が望まれるところである。

【参考】軽減税率の対象となる飲食料品の範囲のイメージ(日本の場合)

※税務大学校講本(「消費税法(令和8年版)」37頁)を基に作成