書評 南 成人・中里 拓哉・高橋 和則著 『財務諸表監査の実務(第2版)』

(中央経済社刊/本体4,600円+税)

監査審査会 前会長 千代田邦夫

( 33頁)

本書は全30章から構成される「現代財務諸表監査の実務」の解説書である。わが国の「監査基準委員会報告書」や「監査・保証実務委員会報告書」等を丁寧に分析しかつ総合化して現代財務諸表監査実務の体系を示している。そして,わが国の監査実務はいわゆる「国際監査基準」に準拠しているので,本書を解読することによって,わが国の現代財務諸表監査実践と同時に国際監査実務を体系的に学ぶことができる。

何よりも,監査リスク・アプローチの説明から入っている点が良い。監査リスク・アプローチは世界的に主流であるからである。そして,監査リスク・アプローチによる監査調書体系の全体像を鳥瞰図のように示している点は高く評価される。監査リスク・アプローチにおける重要性の基準値と手続実施上の重要性の関係,重要性の決定の監査調書への記載等の事例も興味深い。

監査実務の難題である会計上の見積り(滞留棚卸資産,滞留債権,有価証券,退職給付,税効果等),収益認識と不正事例,特殊売上に関する監査手続,監査役とのコミュニケーション等についても中心課題として解説しているが,特に,監査要点間の関係,母集団の階層化,確認の回答の異常なケース,資金還流...