企業会計とマイナス金利

早稲田大学商学部/大学院商学研究科 教授 辻山栄子

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1.はじめに

日銀が1月下旬の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決め,2月から金融機関が保有する日本銀行当座預金のうち一定の部分に0.1%のマイナス金利が適用されている。これを受けて,長期金利の代表である10年国債の利回りが史上初めてマイナスになっている。

ただし,このことが企業経営に与える実体的な影響の程度は,現段階では不透明である。日銀のマイナス金利政策が国債の金利ばかりではなく市中金利の低下につながり,企業の資金調達の幅が広がっていることは事実だが,それが直ちに企業の投資機会の拡大につながるとは限らない。また企業の売上拡大につながる個人消費の刺激策としても,個人に対する与信ルールが変わらないなかでの銀行の貸出金利の低下が,どの程度個人貸出の拡大につながり,消費を刺激できるのかは未知数である。逆に,企業は従来通りの受取利息を獲得できなくなるため,マイナス金利が企業の余剰資金の運用に与える影響も無視できない。また,将来に対する不確実性の高まりが消費マインドを冷やして,かえって消費者の財布の紐を締めさせる可能性も否定できない。

一方,企業会計においては,国債の利回りがマイナスになった...