ハーフタイム ロビンソン・クルーソーの経済観と宗教意識

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誰でも子供の頃,絶海の孤島に漂着しながら,絶望することなく一人で合理的に生き抜いた『ロビンソン・クルーソー』を読み,胸をときめかせた記憶があろう。英国の作家ダニエル・デフォー58歳の作(1719)は,大人になってもう一度読み返すと,別の味わいがある。クルーソーは船乗りになり遭難等した後ブラジルに渡り農園経営に成功したが,そこに安住することなく,再びアフリカ貿易に出かけて暴風に遭い彼一人だけ孤島に漂着する。そこから始まる孤島での28年に及ぶ生活ぶりが物語のクライマックスであるが,18世紀初頭の英国中流階級の経済観や宗教意識が随所に伺える。ここではそこに注目する。

クルーソーは,貿易で成功した豊かな商人の3男坊として生まれた。ところが,長兄は戦死,次兄は行方不明となり,3男坊だけはどうしても法律家にしたかった父親は,"血気にはやるのだけはやめてくれ"と,次のように懇願する。「勤勉と努力次第で財産を築くのは思いのままだ」,「節制・中庸・平静・健康・社交にこそあらゆる望ましい楽しみがある」。これらの言葉は,英国の経済思想史家トーニ ―『宗教と資本主義の興隆』によると,「経済的・宗教的な志向がかな...