書評 監査の品質に関する研究会 編 『監査の現場からの声~監査品質を高めるために』

(同文舘出版刊/本体2,300円+税)

 日本公認会計士協会前会長 森 公高

( 44頁)

2015年2月に大手電機メーカーの会計不正事件が発覚した。資本市場の健全性を確保し,活性化を図るため,企業に対するコーポレートガバナンス・コード,機関投資家に対するスチュワードシップ・コードが策定され,適用された矢先のことであり,監査業界をはじめ市場関係者には衝撃が走った。この事件を受け,金融庁は「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置し,2016年3月に「提言‐会計監査の信頼性確保のために‐」を公表し,監査強化の施策を打ち出し,本書が取り上げている「監査法人の組織的な運営に関する原則《監査法人のガバナンス・コード》」(以下,コードという。)の制定や,主に監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の記載を求める監査基準の改正が行われている。掲げられた監査強化策は,これまでの会計不正事件を受けた強化策の多くは監査手続きの強化であったのに対し,監査の品質の維持,向上のための監査人のあるべき姿を求めていると考えている。

この会計不正事件については,度々,書籍,雑誌に取り上げられているが,会計不正に係る会計処理や内部統制の分析,必用な監査手続きの分析に関するものが多い。本書では,この会計不正事件を契...