書評 小谷融著『琉球政府時代の証券史』

(中央経済社/本体4,500円+税)

事業創造大学院大学 教授/公認会計士 鈴木広樹

( 44頁)

なぜ琉球政府時代の証券史?

本書は、『金融商品取引法の開示制度』(中央経済社)などの著作のある小谷融氏が、1945年から1972年までの米国統治下の沖縄の証券取引法の歴史を記したものである。

本書の題名から狭く特殊な内容と捉える方がいるかもしれないが、本書を読むと、そうでないことがわかる。琉球政府時代の証券史は、証券制度のあり方について考えさせてくれる格好の題材であるといえる。

理想と現実

沖縄の証券取引法は本土のそれに準拠したものだったが、いくつか相違点があった(第2章)。有価証券届出書の提出基準が低く設定されたほか、これは沖縄に証券取引所が設けられなかったためなのだが、有価証券報告書の提出義務者も広く設定された。

そのため、公認会計士による監査の対象が本土よりも広かった(第4章)。当時の沖縄の公認会計士は税理士を兼業せず、監査専業が多かったという。有価証券報告書提出会社だけでなく、銀行に対する監査が本土より15年も早くから求められていたほか(第5章)、政府の機関である各種公社に対する監査も求められていた(第7章)。

筆者は、そうした制度を「進歩的」だったと表現している。確かに理想的なあり方に見...