<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第68回 Goodwillと無形資産(3)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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就職活動と社員教育

筆者が大学を卒業した1980年代初頭の就職戦線は完全な売り手市場だった。当時は、社会学者エズラ・ボーゲル氏による「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が1979年に出版され、日本で70万部を超えるベストセラーとなり、日本中がそれを信じていた。企業も将来の成長を信じて疑わず、新卒採用競争は激烈であった。その意味では当時の学生の就職活動は今よりもはるかに楽だった。

ただ、良いことばかりではなかった。当時は今よりも終身雇用の慣習が徹底しており、新卒以外で一流企業に就職する事はあり得なかった。逆に言えば、新卒で就職する会社を決めてしまったら、一生その会社で働く以外の選択肢はなかった。つまりその会社をクビになったら路頭に迷うことに直結した。

企業が途中採用を好まなかったのは、新卒社員を社風に染めることが企業経営に欠かせないと信じられていたからだ。社会人経験のない真っ白な状態の新卒者に対して、徹底して会社の歴史や創業精神を叩き込む。半ば強制的に独身寮に入寮させ、来る日も来る日も研修だ、社員旅行だ、懇親会だと24時間365日会社漬けにしてしまう。半年もすると、新卒者は立派な“○○社マン”に成...