[全文公開] 書評 井上 康一 著 『移転価格税制についての素朴な疑問』(2025年9月30日/税務研究会)
弁護士 仲谷 栄一郎
弁護士 田中 良
移転価格税制は国際税務において非常に重要な分野であり、本誌においても関連する論文及び記事等が毎号のように掲載されている。しかし、同税制については、独立企業間価格の算定等においてテクニカルな議論が多く、独立価格比準法の適用例を基に説明される原則論と、取引単位営業利益法(TNMM)が主流である現行実務との乖離が顕著であることなどから全体像の理解が困難となっている。
そのような状況において登場した本書は、混沌とした移転価格税制について明確な見取り図を提供するものであり、今後、長年にわたり貴重な文献として参照されるべきものとなると考えられる。
まず、本書は、条文、通達、事務運営指針、税務当局関係者による講演録などを徹底的に調べ上げたうえで、現在の税務当局の見解を特定している。この点について本書には大きな価値がある。移転価格税制の関連資料は膨大であるが、読者は、本書を参照するだけで、幸運にもその成果を享受することができる。また、移転価格対応にて頻繁に問題となる、寄附金課税と移転価格税制の区別という従前からの難問について明快な整理も含まれていることも見逃せない。
また、本書は、日系の多国籍企業グループを念頭において、移転価格税制のルールを具体的に当てはめることにより、移転価格税制の実際の適用のあり方(利益分割法とTNMMの使い分け、TNMMの具体的な適用の在り方など)を解像度高く示す。企業グループ内役務提供、無形資産取引という実務上頻出の取引類型における考え方も鮮やかに示している。特に企業グループ内役務提供については、低付加価値サービスの3つの類型をどのように区別するかについて、「一般の解説書等においても、必ずしも十分な説明がなされていないように見受けられる」(本書289頁)として詳しく説明がなされているが、まさに実務に際して評者としても同様に感じていたところである。また、3つの局面(初期調査、本格的な調査、相互協議を伴う事前確認における検討の局面)における税務当局による独立企業間価格の算定の考え方を特定することにより、納税者側の現実的な実務対応について有益な示唆を提供する。制度解説の平板な記述にとどまらず、税務当局の考え方を踏まえた企業側の実務上の対応についての説得的な提案がなされていることにも、本書の大きな価値がある。現実の移転価格対応に従事している税務担当者必読の書籍である。
(評者:弁護士 仲谷 栄一郎・田中 良)
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