ハーフタイム ドイツ資本主義の変質

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1989年11月のベルリンの壁崩壊直後,西ベルリン市内に殺到した東ベルリン市民に"ヴィルコメン・ゲルト"(ウエルカム・マネー)として百西独マルクを配ったのはドイツ銀行だ。百マルク札を握りしめて向かった先は百貨店,お目当ては物珍しい"バナナ"だった。ドイツ全体がユーフォリア(陶酔感)に溢れていたときではあるが,それにしても随分気前の良い銀行だった。東ベルリン市内でバスを仮店舗としながら,タンス預金だった東独マルクを預かる業務をいち早く開始したのもドイツ銀行だった。お金の貸し借りには金利を伴い,固定資産の利用には減価償却が必要なことを知らなかった社会主義社会の個人や企業にとって,ドイツ銀行との取引は資本主義との最初の幸せな出会いだったことになる。翌年6月には,東西マルクが統合され,実質価値10分の1以下の東独マルクは,個人預金は1対1,企業預金は2対1で西独マルクに換算されたのだから。

ベルリンの壁崩壊は東西冷戦の終焉とグローバリゼーションの序章となった。ドイツ銀行は,その後急速に投資銀行化し,個人客でにぎわっていた大型店舗のカウンターは閉鎖され,主なサービスはATMに置き換わった。欧州中銀...