ハーフタイム『努力論』

( 44頁)

長時間労働をなくして,労働生産性を上げようと言う「働き方改革」が叫ばれているいま,努力を語るのは時代の風潮に反するように見えるかも知れない。努力には,ときには意思や感情に反しても,厭なことや辛いことにも刻苦勉励するという意味があるからだ。

しかし,世界の文明は,ピラミッド建設からAI開発に至るまで,すべて人間の努力に負うものであり,わが国の戦後復興も高度成長も,モーレツ社員の努力による成果であった。

そこで,私たちの働き方を考えるに当たり,努力とは一体何かを見つめ直す必要があると思う。

周到緻密な人間観察から生まれた幸田露伴『努力論』(1912)を手に取ってみると,努力とは「精神的自己革新による生活の充実」であるから,人から言われてやる長時間労働とは無縁であり,生きがいの源泉となるはずだ。

やや抽象論に聞こえるが,露伴が言う「努力」する人の例は,著者24歳時の名作『五重塔』(1891)の主人公"のっそり十兵衛"をイメージすると判り易い。大工としての腕は確かだが,世渡りが下手でのろまと言われていた十兵衛は,様々な人間関係や技術上の困難を乗り越えて,五重塔建設を請負い,大型台風にもびくともしない立...