ハーフタイム 予想信用損失モデルのどこが革新的でどこまでが伝統的か

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IFRS9(2014)の予想信用損失(ECL)モデルは,金融商品の減損処理のコアであり,2018年1月以降始まる事業年度から適用される。いまやIFRS適用企業や監査法人は実施要領の最後の仕上げに余念がなく,バーゼルの国際決済銀行(BIS)も欧州銀行監督局(EBA)も新会計基準に大きな期待を寄せている。IAS39による信用損失モデルでは,債務者の信用力低下を示す客観的証拠が表面化するまで損失を認識しないため,10年前の金融危機では銀行ローンの信用損失認識は"too little, too late"だと言われてきた。

新しいECLモデルでは,客観的証拠の有無に係わらず,将来予測や確率計算に基づいて減損を認識し,信用リスクの高まりに応じて引当金を積み増す。償却原価法適用のローン債権などについては,公正価値測定は不要とされてきたが,IFRS9では償却原価法と公正価値測定は両立するとみる。たとえばローン返済が30日以上遅れたときにはじめて引当金を積み始めるのではなく,これからは信用の著しい低下が予想される情報を入手したときに引当金を積み増すようになる。つまり"forward-looking"がキ...